鈴木:高校のとき、卒業生の梅原さんが講演会に来たことがあるんです。僕、それまで講演会なんて何の興味もなかったんですけど、その時は聞きに行ったんですよね。僕の本の中に梅原猛の本は結構あるんですよ。だけど、梅原さんは宮沢賢治の『よだかの星』を絶賛していて、僕とはちょっと違うなと。梅原さんの『地獄の思想』かな。あの中に『よだかの星』がいっぱい出てくるんですよ。梅原さんってもともと西洋哲学を勉強した人で、年を取ってから日本に帰ってきた人なんですよ。僕ね、1回だけ宮崎駿と網野善彦、それから梅原さん、僕の4人でごはんを食べたんです。僕は梅原さんが高校の先輩だと知っていたんですが、あえて言わなかったんですよ。梅原さんは最初、一応「さん付け」で呼んでくれたんですよ。そしたら名古屋大で助教授をしてた網野さんが、「鈴木さん、名古屋でしたよね」と言いだして。僕は話題を変えようとしたんですけど、梅原さんが聞き逃さなかったんですね。いきなりね「高校はどこだ」って口調が変わったんですよ。僕は仕方なく下を向いてね、「東海ですけど」と。そしたらいきなりね。「なんだ、俺の後輩じゃないかって。なんで黙ってた」って怒られちゃって。よく覚えています。でもそのあと和気藹々。面白い人ですよね。

半谷:ちょうど網野さんの名が出てきたので、(『僕の叔父さん 網野善彦』を棚から出して、)これですよね。

鈴木:いい本ですよね。僕、中沢(新一)さんの本で一番好き。だって普段わかりにくいこといっぱい書いているじゃないですか。でもこれ、わかりやすいんですよ。「あらゆる物語は旧石器につくられた」「すべての物語はそのバリエーションである」。かっこいいですよね。

半谷:しびれるんですよ。中沢新一って人は天性で蠱惑(こわく)的な文章を書く方ですよね。その中では確かにこの本が一番わかりやすいし、おもしろい!

鈴木:面白い。ほんと面白い。

半谷:若き中沢青年との問答を書いているんですよね。

鈴木:本当に血がつながっているんですよね、あの2人。網野さんも面白いですよね。いわゆる南北朝時代にあらゆる価値観が変わるということを言った方で。日本の絵巻をいっぱい見ている。天皇が亡くなって、一緒に入水して死ぬ人は、坊主は当たり前だけど、ほかに白拍子、いまでいう売春婦と博打打ち。天皇と一緒に死ねるということは明らかに身分が高かったんだろうと推論をするわけですね。そういう人たちの職業の地位がある時期を境に低くなっちゃう。それは一体なぜなのか。それを大胆に推論するんですよね。彼が目をつけたのが後醍醐天皇という人なんですよ。それが『異形の王権』っていう本でね。僕が宣伝すると映画のキャッチコピーみたいになっちゃうんだけど、僕はこの後醍醐天皇をテーマに映画を作ったら面白いだろうなと思っていたんですよ。後醍醐天皇のおかげで日本の価値観がぐるっと大回転した。何が一体起きたのか。

半谷:ジブリでは作れないものですか。

鈴木:宮さん(宮崎駿さん)がね、あんまり乗らなかったんだよな。

■宮崎駿とつないだ「コナン」と杉浦茂

半谷:日本の中世の話題が出たんで、ここで鈴木さんに聞いてみたいんですが、どうして「アシタカせっ(草かんむりに耳3つ)記」という難しいタイトルが「もののけ姫」になったんですか。

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