いよいよW杯開幕まで12時間を切った。ブラジル国内の状況については治安に対する不安はもちろん、デモやストが起きていて、何らかのトラブルに巻き込まれるのではないかと思っていた。でも、実際のパウリスタ(サンパウロっ子)たちはセルベージャ(ビール)で乾杯をし、カサーシャ(蒸留酒)あおり、開幕を心待ちにしている。
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パウリスタ大通りを歩くと各国のサポーターに出会う。開幕戦を戦うクロアチアのユニフォームをまとった人、オレンジの服を着たオランダ人も目立つが、一番多いのはやはり中南米からの旅行者。メキシコ、チリ、コロンビア、ペルー。
アルゼンチンの服を着た青年と、ブラジルの服を着た青年が肩を組んで踊っていた。
「メッシとネイマールどっちが上だと思う?」
そう聞かれる。「メッシ…」と口から出かかったが、思いとどまり「ネイマールだ」答えた。すると、ブラジル人たちはみんな大声で喜んだ。そして「日本も良いチームだ、きっとコロンビアと共にグループリーグを突破するよ」と。
パウリスタ大通りを進み、アウグスタ通りへ。皆、自分の国のチャント(応援歌)を歌っている。黄色の服をまとったブラジル人が多い。彼らと話すと意外な言葉が返ってくる。
「エンドー。いい選手だね」
香川や本田、長友の名前ばかりが聞こえてくるかとおもいきや、日本のグッドプレイヤーに遠藤の名前を挙げる人が少なからずいた。ブラジル人のサッカーに対する知識、理解度は相当なものだ。
このように書くと、街は至極平和なように思えるが、やはりそうではない部分も。サンパウロに来て10日目の日本人旅行者は言う。
「やっぱりブラジルは危険ですよ。僕もこのあいだブラジル対セルビアを観に行ったんですけど、帰り道でいきなり胸ぐらをつかまれた。そのまま木の影に連れて行かれてお金を取られた。結構日本人はやられているみたいですね。気をつけてくださいね」
陽気なブラジル人が大半を占める中で、やはりガラの悪い人間もいるようだ。自分が被害に合っていないからと言って、安全とは限らない。
「コロンビア対日本? クイアバだろ。遠すぎるから行けないよ。高いしね」
そう語ったコロンビア人の一言が印象的だった。みんな、なけなしのお金を払って物価の高いブラジルに来ている。そうして精一杯楽しんでいる。
さあ、これからW杯は始まる。
開幕前夜のサンパウロより。
(ライター&エディター 遠藤由次郎)
4年半の書籍編集者を経てフリーに。趣味多数。ライフワークは、海外でのフルマラソン。地元のサッカーチーム・アスルクラロ沼津(JFL)を追った連載も執筆中。