■時代の雰囲気や情景をマンガで残したい
ヤ:私と羽海野先生はマンガ家として同世代ぐらいですけど、若い読者にはあの当時の日本っていうのが、映画やマンガでしか知らない世界じゃないですか。だからこの先、古き良き昭和の情景が感じられる描写はすごく大事になっていくと思います。
羽:私たちの世代はああいうマンガを描いて残して、きっと、次の世代の人たちはその人たちが味わった時代の空気みたいなものを描いて残していくんでしょうね。私が藤子不二雄(A)先生の『まんが道』とかを読むと「あぁ、一世代前の人たちはこんな感じだったんだ」ってわかるように。
ヤ:『テルマエ・ロマエ』の1話目って、実は昭和が舞台なんですよ。昭和52年(1977年)の設定で。私は1984年に日本を離れちゃっているので、描こうと思った時、私の記憶の中にあるのは昭和のお風呂屋さんだったんです。「スター・ウォーズ」と「男はつらいよ」のポスターが貼ってある。あの頃はまだ人情があったので、もし外国人がいきなり湯船からバンッって出てきても、周りのおじさんたちが親切にあれこれ声をかけるのかなとか思うわけですよ。今の時代だったら、「あぁびっくりした」で終わるのかもしれませんが。
羽:みんな何事もなかったように、スーって引いちゃう……。
ヤ:かもしれない。でも、おかげさまで映画にしていただいたから、皆さん、突然外国人が出てきてもたぶん親切にしてくれるんじゃないかと。
羽:親切にしようと思いましたよ、絶対。
ヤ:羽海野さんが、古き良きっていうものを意識して残していかなきゃいけないって思いながら描かれているのは、恐れ多いことなんですが、私も同じだなと感じます。
羽:マンガで残しておくと、私がいなくなってもみんな読むことができるんだなと思いながら描いています。