■別れが辛くなるぐらい、登場人物に思い入れ

ヤ:初めて羽海野さんと直接お会いしたのは、荒川弘先生が『銀の匙』で「マンガ大賞」を獲られた時の受賞式ですね。それからは、帰国するたびにいつもお会いして、ご飯を食べたり買い物に行ったり、できる限りのことを原稿の合間にやっています。

羽:マリさんは海外に住んでいらっしゃいますが、私が日本で一番会っている人はマリさんです。私はトキワ荘の物語がとても好きで、何度も読んでいるんですけれど、今の自分に置き換えたら、いつものマンガ家のみんなで集まっている、この雰囲気がそうなのかなと思って。

ヤ:トキワ荘みたいに、みんな同じ屋根の下にいられたら一番いいのかもしれませんね。私はマンガ家としてデビューしてからシリアという国に一時期住んでいたんですけれど、シリアへ引越しをする際、当時一番仲の良かったお友達から『ハチミツとクローバー』(ハチクロ)の全巻だけは持ってって! と渡されて。シリアでは、全部アラビア語で読むものがないですから、『ハチクロ』を1巻につき3回ぐらい読み返していました。その頃、エッセイマンガを描かないかという依頼がきまして、エッセイマンガは描いたことがないけれど、一生懸命描かなきゃいけない、じゃあ何を手本にしたらいいんだろうと思った時、手元にあったのが『ハチクロ』だけだったんです。そして『モーレツ!イタリア家族』(注2)という、イタリアの家に嫁いで姑に酷い目にあう話を描くんですけれども、絵は非常に羽海野さんの影響を受けているんですよ。私の中に“羽海能力”が注入されていることが、ありありと見えます。

羽:光栄です。

ヤ:今回の『3月のライオン』もそうですけれども、羽海野さんは登場人物それぞれの人格形成をものすごく細かく丁寧に、抜かりなくやっていらっしゃる感じがするんですよね。前に羽海野さんは、『ハチクロ』を描き終わった後、ちょっと茫然自失状態になっちゃったと、それまで一緒に暮らしていた仲間たちが急にいなくなっちゃった、っておっしゃっておられましたね。その頃、私はまだ『テルマエ・ロマエ』(テルマエ)を描いていたので、もしかしたら私も「ルシウスがいない!」とか「ハドリアヌスがいないっ」っていう喪失感がくるかなって思ったら……全然こなかったんですよ。爽快な感じでお別れができたんですよね。でも私、『3月のライオン』を読んでいて、このマンガが終わっちゃった時に、ここに出てくる人たちと別れるのはすっごい辛いだろうなあと。自分のマンガに対して思わなかったことを羽海野先生のマンガに対して思ってしまっています。

注2)2006年刊行の講談社ワイドKC(全1巻)。イタリア人の夫の実家での暮らしを描いたコミックエッセイで、イタリアの旅行ガイドや簡単なイタリア語会話集も収録。

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