このような要求に、事業者側は強い懸念を示す。
「必要な対策の定義があいまいで、具体的にどう対応すべきなのかよくわかりません。そもそも、香川県のユーザーだけに対策をとるのは非現実的です。ネット・ゲーム業界の実情を理解した条例だとは思えず、国民の権利を侵害する恐れもあります」(大手情報通信会社の技術者)
条例案は県議による検討委員会(委員長、大山一郎・県議会議長)で議論されてきた。委員会でまとめた「素案」について、1月23日から2月6日まで、県民や事業者らを対象に意見を公募(パブリックコメント)した。
パブコメは多様な意見を集め、それへの見解をまとめるもので、賛否を問うものではない。にもかかわらず、県議会事務局は2686件の意見のうち、賛成2269件、反対401件だったと公表。県民の大半が賛成しているかのような印象を与えた。
県議会事務局が3月17日にホームページで公表したものによると、賛成の意見の概要は1ページ。次のような意見があった。
「反発する声が沢山あるようだが、そのほとんどは感情論のように思える」
「強制力がないとしても、ゲームのことだけではなく子どもたちが親や社会と決めたルール・約束を守らなければならないと少しでも感じてくれたらいいと思う」
これに対し、反対の意見の概要は約80ページに上る。前文から条文、附則まで、様々な疑問点が示された。
「健康への影響・因果関係を裏付ける根拠が脆弱である」
「そもそも、どうしてゲーム、スマートフォン依存の問題だけを取り出して規制するのか」
「家庭の中で話し合う内容にまで踏み込んでいる。条例の必要性・意味・効果が疑問である。条例を定めても家庭のルールや環境は変わらない」
「立法ではなく福祉広報でよいのでは」
県議会側はこれらの反対意見について、「ご意見等に対する考え方」として、次のような見解などを出して理解を得ようとしている。
「ネット・ゲーム依存症対策を総合的かつ計画的に推進することを目的としたものであり、決してゲーム全てを否定しようとするものではありません」
しかし、パブコメでは、ネットサービス事業者の71件の意見のうち賛成はゼロ。様々な疑問点が示されており、県議会側の見解だけでは十分な理解は得られそうもない。県議会事務局がネット上でパブコメの内容を公開したのは採決の前日の3月17日で、社会的に議論を深める時間はほとんどなかった。
さらに、パブコメを巡っては、賛成意見が組織的に集められたのではないかという疑惑も浮上している。
検討委の委員だった秋山時貞県議(共産党)は、十分な議論のないまま拙速に採決されたとして、条例案に反対した。
「パブコメの詳しい中身が公開されないまま、採決されました。ゲームの問題で悩んでいる人を支援するのは大切ですが、条例は個人のデリケートな領域に踏み込むものです。もっと時間をかけて審議すべきでした。条例の修整や改正もあり得るので、県民のためになっているのかこれからもウォッチしていきたい」
今回の成立で、同じような条例がほかの自治体にも広がる可能性が指摘されている。ネット上では、こうした条例に反対する地方議員の連携が呼びかけられている。
子どもを守るために条例は必要だという声も根強いが、香川県の事例でもわかったように議論すべきことはたくさんある。一部のゲームファンが反対しているだけだと矮小化せず、多くの有権者がじっくり考えるべきテーマだ。
(本誌・多田敏男)
※週刊朝日オンライン限定記事