北島はこの結果を冷静に受け止めて、練習に対する集中力を高めていきました。五輪で勝つために、大会前に練習を減らして調整する時期を後ろにずらし、ぎりぎりまで強化を続ける決断をしました。北島に伝えると、「先生に任せます」と即答してくれました。
米国からレースの動画を送ってもらい、帯同していた国立スポーツ科学センター(JISS)の研究者、岩原文彦さん(現在は日体大准教授)がレースを分析した結果を見て、「これだけ完璧なレースを五輪の競り合いの中で再現するのは難しい」と判断しました。
アテネ五輪本番で北島が予選から飛ばしてハンセンにプレッシャーをかけたのは、このときのレース分析結果を受けた作戦でした。
ダメかもしれないと弱気になったとき、自分自身にこう言い聞かせています。
「このどん底を我慢して成功に変えるのは自分しかできない。ほかの人はあきらめるかもしれないけれど自分は決してあきらめない」
今回の高地合宿に入る前、試合で思うような結果が出せなかった萩野公介は確実に調子を上げてきました。合宿終盤で気をつけているのは、苦しいときにストローク、ターン、タッチなどのテクニックをいかに正確にできるか、ということ。それが試合での結果に直結していきます。
(構成/本誌・堀井正明)
※週刊朝日 2020年3月27日号