心愛さんの事件では、勇一郎被告は妻に暴力を振るい一度離婚している。離婚原因の背景に重篤なDVがあったことを確認しながら改善されない状況で自宅に帰すことは、母親や心愛さんへの暴力・虐待のリスクは高いと判断できたはずだという。だが、検証報告書が形骸化し、教訓にも自戒にもなっていない。

 小木曽教授が県内の児童相談所職員に過去の検証報告書を読んでいるか聞き取りをしたところ、「読んでいる」と答えたのはわずか2割程度。読んでいない理由のほとんどが「多忙」だった。小木曽教授は言う。

「仮に検証報告書を読んでいても、今回の事件は起きたかもしれません。しかし読んでいれば、『心愛さんを自宅に帰すのは危険』と、気づきがあったかもしれない。検証報告書は虐待再発防止に何とかつなげてほしいと思って出している。出される意義を改めて考える必要がある」

 もちろん、千葉県だけの問題ではない。全国どの地域でも同様の虐待事件が起きる可能性があり、実際に起きている。

 心愛さんのような悲劇を繰り返さないために、千葉県は組織・人員体制の強化を行い、児童福祉司や児童心理司などの増員を図るという。また4月、「体罰禁止」を明記した改正児童虐待防止法が施行される。体罰の具体例として「いたずらしたので長時間正座させる」などを盛り込んだ。そこでは、体罰をさせないために自治体や児童相談所と連携して子育て支援をする必要性なども挙げている。

 DV被害者の支援団体「エープラス」代表理事の吉祥(よしざき)眞佐緒さん(50)は、子どもの頃からの教育が必要と説く。

「幼少期から人との関係性づくりを教えることが大事。男女は平等で相手を支配しても支配されてもいけないと、義務教育の段階から教えることが大切です」

 子どもの命を守るために何ができるのか、社会を挙げて考え続けなければならない。そうでなければ、亡くなった心愛さんに合わせる顔がない。(編集部・野村昌二)

AERA 2020年3月30日号より抜粋

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼