外を見るとほとんど何も見えない。もっとも濃い一瞬を過ぎると少しずつ色が薄くなってきた気がする。ナイルの支流にかかる橋の上に見えているのは人影か。驚いたことに、ガラベーヤ(裾まである民族衣装)を着た、長身の地元男性が佇んでいるではないか。
砂嵐が通り過ぎる間中、そこにいたのだろうか。三~四時間経ってだいぶ空気の色が元に戻ったところで私たちも外出した。
すっかり砂嵐が去ってしまったあとの空も太陽も美しかった。無駄なもの、醜いものを、砂が一気にそぎ落としてくれたような。
あらゆるものに砂がついて汚れるのを予想していたが、全く逆で、砂は余分なものをそぎ落とす。水と同じ作用をするという。
並木は鮮やかな緑をとりもどし、火焔樹の真紅の花が生き生きとしている。アラブでは砂は水のかわりをする神聖なものなのだ。
ハムシーンで、目に見えないウイルスともやもやした気分を吹き飛ばしてほしいものだ。
※週刊朝日 2020年4月3日号