「ウイルスは、細菌よりもはるかに小さく、この世の中で最も小さな感染性の構造体です。生物の最小単位は細胞だと教科書的には言われますが、それよりはるかに小さく、構造も単純で代謝などの生命活動も行わないことから、生物学的には一概に生命体とも呼べない存在です。それが口や鼻から体内に入り、私たちの細胞の奥深くまで侵入し、自身の遺伝情報を私たちの遺伝情報に組み込み、感染した細胞の機能を用いて自身の遺伝子を複製することで増殖します。爆発的に増殖する場合もあれば、遺伝情報を組み込んだまま増殖せずにじっとしている場合もあり、その生態は様々です」
「このウイルスが時にヒトの歴史を変えるほどの疫病をもたらしてきた訳ですが、絶え間ないウイルスとの戦いの中で生まれた研究成果の積み重ねがワクチンなどの医薬品を生んできました。そして、ウイルス研究を通して得られた知見がもととなり、遺伝子研究が発展し、今まさに実用化に向けて加速しているゲノム医療や再生医療などの先端医療につながっているのです」
ウイルスは、科学や社会について関心を深める入り口にもなると林氏は言うが、小、中学生がウイルスそのものについて調べるのはなかなか難しい。
「実は小学校の理科や中学校の生物には、ウイルスをより深く理解するヒントがたくさん含まれているんです。ただ学んだことを日常生活の中で活かす場面がそうそうないので、関心につながらないのだと思います」(林氏)
新型コロナウイルスの影響もあり、じわじわと売れ行きを伸ばしている科学漫画サバイバルシリーズ『新型ウイルスのサバイバル(1)、(2)』といった漫画を通じて関心を深めることも意義があると林氏は言う。
「マンガらしく多少ストーリーが誇張されている部分もありますが、ウイルスの特徴や病気との関わり、感染症を防ぐ仕組みなどについて子どもが興味や関心をもったり、親子でウイルスについて話し合ったりするきっかけとして最適だと思います」(林氏)