下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「アジアはいつも薄曇り」(隔週)、「タビノート」(毎月)
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「アジアはいつも薄曇り」(隔週)、「タビノート」(毎月)
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新型コロナウイルスの影響で欠航が相次いでいる(バンコク・スワンナプーム空港)
新型コロナウイルスの影響で欠航が相次いでいる(バンコク・スワンナプーム空港)

「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第22回は「タイの出入国審査」について。

【写真】欠航が相次いでいるバンコク・スワンナプーム空港

*  *  *

 タイの出入国審査はいつも気が重い。今回はうまく読みとってくれるだろうか……。審査の列に並びながら、つい指先を眺めてしまう。

 タイは2019年から、出入国時に、顔写真に加えて、両手の指紋をスキャナーで読みとるようになった。ガラス板の上に左右の指を順番に載せる。最初は右手。ところが僕の右手の指の指紋をなかなか読みとってくれない。右手が終わらないと、左手に移ることができないから、審査ブースの前で、何回も右手を載せることになる。5回、6回……。なかなか読みとってくれない。職員から両手をこすり合わせてみて……といわれる。祈るような気持ちで手をこすり合わせ、また載せる。読みとってくれない。それからさらに3回、4回……。

 そのうちに後ろに並んでいる人たちが苛立ち、「指先をもっと強く押しつけろ」、「指先を布で拭け」などと声がかかる。試行錯誤が続く。そのうちに、まるで機械が諦めたかのように、画面が変わる。読みとってくれたのだ。なぜか左手は一発で終わることが多い。

 指紋を読みとる国はタイだけではない。中国、フィリピン、カンボジア……。どの国でも僕の指紋スキャンは1回では終わらない。

 僕の指紋は薄いのだろうか。本など長い原稿を書くときは手書きである。シャープペンを握る。それがいけない? 汚れているのかもしれない。調べると、指紋をスキャンする前に手を洗うと読みとりやすくなるようだ。

 出入国審査の前に、トイレで手を洗うようにしている。しかし読みとり具合は変わらない。

 世界の国々は、出入国審査をスピーディーに行うための機械の導入を進めている。日本も顔認証ゲートが増えつつある。パスポート情報を読みとり、顔写真と照合していく。同時に出入国スタンプも省略されるようになった。

 これも世界的な傾向である。

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