「効率的な運用を維持できるのは患者数がほぼ一定のときだけです。平時の入院患者数を見込めるから、その範囲内で医療資源をフル稼働させる効率運用が続けられるのです。逆に言えば、効率化が進んでいる病院ほど非常時の患者の急増への対応は困難です。新型コロナの入院患者が全体の2割の需要増をもたらせば、機能不全に陥る病院も出てくるでしょう」

 イタリアでは、急激な患者の増加から数日で医療崩壊に至った病院もあるという。特定の地域で新型コロナの感染者が広がると、病棟やICUで収容しきれなくなり、重症患者に必要な吸入用の酸素や人工呼吸器も枯渇する。そんな中、医療スタッフに感染が広がれば、医療は必然的に機能不全に陥る。

■医療資源の枯渇は「命の選択」に

 実際、イタリアでは医療用マスクや防護服の不足によって多くの医師らが感染した。医療スタッフへの感染拡大で人手不足がさらに深刻化する負の連鎖は日本でも十分起こり得る事態だ。

 医療資源の枯渇は、「命の選択」にもつながりかねない。

「イタリアでは挿管、人工呼吸器などの医療資源が足りなくなり、『誰を生き残らせるべきか』という、命の選択も始まっています。その場合、最重症の患者や後期高齢者などが『見捨てられる』ことになるでしょう」

 津田教授はこう警告する。

「日本では新規感染者数がアップダウンを繰り返しながらも全体として伸び、累積患者数も緩やかながら継続的な右肩上がりの状態です。日本も医療需要の急速な拡大がいつ、どこで起きてもおかしくない状況です」

(編集部・渡辺豪)

【「高齢化」でイタリアと同じ日本が、新型コロナで医療崩壊しないために今できること】 へ続く

AERA 2020年4月6日号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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