新型コロナウイルスの感染拡大の中心地となったイタリア。致死率の高さの背景には医療崩壊がある。日本も対岸の火事では済まない段階に来ている。AERA2020年4月6日号では、イタリアが置かれている現状から日本のリスクを探る。
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病院の廊下やロビーに並ぶ簡易ベッド。人工呼吸器をつけて横たわるのは、集中治療室(ICU)に収容しきれなくなった新型コロナウイルスの重症患者だ。
「ICUは崩壊しつつある。戦争のようだ」
感染者が集中する病院で治療に当たる医師のSNSの書き込みは悲鳴に近い。新型コロナの感染拡大の主戦場になったイタリアから伝わるのは「医療崩壊」の現実だ。
イタリアの死者数や致死率は中国を上回り、世界最多となった。患者が集中する北部の状況を見る限り、医療システムの崩壊が致死率上昇につながっているようにも映る。
なぜ先進国のイタリアで医療崩壊に至ったのか。
世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は3月16日、イタリアを念頭に「高所得国の医療は無駄なく効率的だが、緊急時に対応の幅を広げるのは難しい。我々はここから学ぶべきだ」と指摘した。
■医療費削減で病床数減
イタリアでは近年、政府が公立病院の統廃合や医師の給与カットなどの医療費削減を進めてきた。その結果、病床数が減り、多くの医師が国外に流出した。医療体制の弱体化が、今回のウイルス封じ込め失敗や、緊急事態に対応できない状況を招いた、との批判の声も上がる。
日本も他人事ではない、と警鐘を鳴らすのは岡山大学大学院の津田敏秀教授(環境疫学)だ。
「プライマリーバランスが求められる緊縮財政の下、イタリアほどではないにせよ、日本でも高齢化社会での医療需要増に対応する医療整備は抑制されてきました。大都市を中心に中核病院は常にベッド数が足りず、どの患者を優先的に退院させるかで四苦八苦しています」
病院経営も採算性を度外視しては成り立たない。各地の病院はいつでも患者を迎え入れられるよう、病床などの医療資源を効率的に運用することで経営を維持しているのが実情だ。ただし、と津田教授は続ける。