■フレイルや未病の対策にも期待される漢方薬

 伊藤さんの研究に注目して、実際の臨床現場で、患者に処方しようと考える医師もいるだろう。

 超高齢社会といわれて久しい昨今、老化に伴うさまざまな症状を緩和する点においては、漢方薬の役割はますます重要になりそうだ。

 高齢者は、老化に伴ってフレイル(脆弱)という状態に陥るが、フレイルは、身体的フレイル(サルコペニア<筋力低下>、ロコモティブシンドローム<運動機能低下>)、精神・心理的フレイル(認知機能低下、うつ、判断力の低下など)、社会的フレイル(孤独、貧困、引きこもりなど)とに分けられる。

 現在、一番研究が進んでいるのは、身体的フレイルのサルコペニアについてだという。伊藤さんの老化促進モデルマウスを用いた研究は、あまり研究が進んでいない精神・心理的フレイルに対して切り込んだものだ。

「私たちの研究は、認知症や精神症状があらわれる前の未病段階に対する漢方薬の研究です。この研究によって、将来的な認知機能の低下に歯止めをかけながら、健康寿命の延伸につなげられればと思っています」

(文・伊波達也)

≪取材した人≫
北里大学東洋医学総合研究所 臨床研究部上級研究員 伊藤直樹薬剤師/2001年北里大学薬学部卒。薬剤師。03年同大学大学院薬学研究科修士課程修了後、同大学東洋医学総合研究所臨床研究部研究員に就任。10年博士(薬学)取得。12 ~ 14 年テキサス大学留学を経て現職。

※週刊朝日ムック『未病から治す本格漢方2020』より

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