長野:物語上も僕ら4人は高校のコーラスグループで出会った設定なんですよね。

川平:そう、だから台本のまんま。楽しいの!……とはいえ、僕は今年58歳、昔は踏ん張りが利いたところが、膝がカクッとなったりすることはあります。

長野:アハハ。

川平:でも年齢を重ねると虚勢を張らなくなって、いい意味で力の抜き方を覚えていく。そのほうがいい音が出たりもするんです。表現の幅が増していると、いいなと思いますね。

 幕が開くと舞台はコンサート会場になる。コンサートを成功させようと奮闘する4人に対し、観客はそのコンサートの“観客役”を果たすことになる。演者と観客が一緒に作り上げる構造だ。

川平:おもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさがあるね。そしていざ俺たちが歌うと圧倒的なハーモニー力、和音が奏でられる。それがお客さんの心を掴むのは間違いないんじゃないかな。

長野:でもそうなるまでは大変でした。初演の時はもう……。

川平:俺、何度この作家を、月夜の晩に後ろからハリセンで殴りたいと思ったことか! なんだよ、この音楽って。

長野:4声合唱のなかには、調和しない音が入っている。その音を聞いて合わせるのも難しいし……。ジェイさんと松岡さんはその調和しない音を歌うことが多かったですよね。

川平:もう、おなかを下しそうなメロディーなの。胃腸薬持ってきて! みたいな。でも、しっかり4声が揃うと、えも言われぬ音の深みが出るんですよね。食べ物でもあるじゃないですか、苦味やえぐみがあるから美味しいみたいな。そういう感じ。

長野:あ~、わかりやすい。大人の味わいですね。

川平:最後、4声合唱の喜びを語る俺の長ゼリフがあるんだけど、自分でもいつもグッとくる。

長野:僕、そのジェイさんの長ゼリフがすごく好き。後ろから見ていて、目が合うと泣きそうになります。

川平:いや、泣きそうなのは俺だよ! 博は子犬が哀願するような目をするんですよ。充曰く、ポメラニアン。もう、ホントにその目はやめてほしい。

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