

半世紀ほど前に出会った97歳と83歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。
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■横尾忠則「指導者には直感的予知能力が必要」
セトウチさん
2020年に開催される東京五輪の開幕は「無し」と予言した人がいたと、以前書きましたが、本当に事実となりました。当初この予言は三年ほど前だったので、何が理由で? 大地震? ゲリラ? ぐらいしか思い浮かびません。まさか新型ウイルスによって五輪が延期になるとは誰が予想したでしょうか。この予言がずーっと気になっていて、今年に中国でコロナが発生して日本に上陸した時、「もしや?」と思ったことが日に日に現実化してくるのを恐ろしく感じていました。
予言というのは未来を過去完了形で想定する発想法ですよね。こーいう現象は芸術の創造の現場でしばしば起こることがあります。制作した作品の内容が、そのまま現実に起こることです。例えば、私事になりますが、中国でコロナ感染が起こる少し前に、病気と病院をテーマにした展覧会を神戸で企画し、オープニングには来館者と主催者側と美術館関係者全員にマスクの装着を義務づけ、持っていない人にはマスクを配って大がかりなパフォーマンスを行いました。ところが、展覧会開催間もなくコロナ旋風が巻き起こって、芸術的フィクションがそのまま現実になって、美術館内のマスク・パフォーマンスが、そのまま街中に発展しています。
芸術創造の現場や、作品には知らず知らずのうちに予知的なエネルギーが作用して、現実が予言通りになってしまうというようなことがしばしば起こるのです。そんな例を経験したアーティストは何人もいるはずです。芸術の創造のルーツは、過去の歴史の文脈の中だけではなく、こうしたまだ見ぬ未来の時間の中にもすでにスタンバイして、その創造が芸術家の手によって、現実化されるのを待っているのです。だから芸術家が幻視者とか予言者と呼ばれる理由かも知れませんね。