寮には風呂がなかったので、大学近くの銭湯をよく利用していました。真冬にガールフレンドと腕を組んで、銭湯に向かったこともあります。かぐや姫の代表曲「神田川」の世界観そのもののような生活でした。

 京大を目指したのは、東大に落ちたことがきっかけです。「何事においても一番を目指す」というのが、私の昔からのポリシー。「日本一の大学に行きたい」と、現役時代は単純な理由から東大を志望していました。でも、浪人を機に調べ直したところ、東大は中央志向、京大は反中央・反権威志向と、学風に違いがあることがわかった。それで自分の性格に合いそうなのは東大より京大だ、と志望先を変更したんです。予備校には通わず自宅で独学し、1年後、ようやく大学の門をくぐることができました。

 受験勉強からの解放感も手伝って、大学入学後はほとんど授業に出ませんでした。その代わり、本をよく読んでいました。大江健三郎・安部公房・サルトルなど、実存主義文学に傾倒する文学青年でした。

 卒業後の進路は、自分で商社を探して、伊藤忠商事に入社しました。農学部生の就職先で多かったのが食品メーカーで、大学推薦で就職先が決まることも多かったのですが、私にはそんな話はほとんど来なかったのです。約25年間のサラリーマン生活を経て、48歳のとき、レアメタルの専門商社を起業。その後、スマイルを世に広める財団法人「スマイルセラピー協会」を作り、19年4月の統一地方選でようやく当選を果たしました。

 京大は、とにかく自由放任主義が徹底した大学です。講義への出席にせよ何にせよ、強制されることは一切ありません。やりたいことをきちんと持っておかないと、4年間を無為に過ごしてしまう可能性は十分にあります。けれど、ある一つの分野に特化すれば、とことん極めることだってできる。山中伸弥さん、本庶佑さん、吉野彰さん等々、ノーベル賞受賞者が多数輩出していることは、そのいい例です。もし京大に行きたいのであれば、宇宙・文学・歴史など何でもいいので、一つ極めたい分野を入学前から持っておくことをおすすめします。

■「哲学の道をぶらぶら。図書館にいるか古本屋にいるか」
生物学者 福岡伸一さん

 京都大学の学生時代は、私自身の原点。特に教養・共通教育課程の2年は、受験勉強の桎梏から解放され、「リベラルアーツ」の意味合いを体得した時間でした。

 その2年間の、ある日のこと。私が講義に出ようと大学建物の階段を下りていったところ、階段を上ってきた人がいました。数学者・森毅さんです。

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