※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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 発生から約3カ月が経過し、いまだはっきりとした治療法が確立されていない新型コロナウイルスによる肺炎。世界中で感染者が増えていくなかで、2012年に創業したスタートアップ企業が治療薬の開発に乗り出した。AI(人工知能)を使って、既存薬のデータから探索するという。

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 Exscientia Ltd.(以下、エクセンシア)は、新薬研究(創薬)を効率化するAIを提供するイギリスのスタートアップ企業だ。創薬のステップは、(1)疾患の原因となるたんぱく質の特定、(2)特定したたんぱく質に作用する化合物の探索、(3)動物モデルを用いた薬効と安全性の検証、(4)臨床試験、の四つに大きく分けられる。このうち(1)および(2)において、エクセンシアのAIが大きな効果を上げている。

 従来の創薬では、ある化合物において一つの条件を想定したときに、どのような効果が見込まれるか、安全性はどの程度かなどを一つずつ検証していくしかなかった。しかし実際に理想の化合物を探すには、数百から数千の条件を想定して絞り込まなければならない。エクセンシアのAIは、人間には不可能なレベルで複雑な探索を一度に行ってくれる。

 同社が大日本住友製薬(日本)と行った共同研究では、業界平均で4年半を要すると考えられていた化合物の探索を12カ月未満に短縮することに成功。今年1月には臨床試験開始を発表した。これが成功すれば、AIと人間が手を携えてつくった世界初の新薬が誕生することになる。

 そんなエクセンシアが3月31日、ダイヤモンド放射光施設(イギリス)及びスクリプス研究所(アメリカ)と共同し、新型コロナウイルスに効果がある治療薬を既存薬の中から探索するプロジェクトを開始すると発表した。

 ダイヤモンド放射光施設は、電子を光速に近い速度で加速させることで、太陽の100億倍の明るさを持つ「ビームライン」と呼ばれる光を生成する施設だ。ビームラインは、ウイルス研究をはじめとしたさまざまな科学研究に必要とされている。

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新型コロナに効果のある既存薬の探索完了は年内にも