「飲み屋が早く閉まったら乗る人もいなくなる。解雇の話は出ていませんが、これからわからない……」
新型コロナウイルス対策で、東京都の小池百合子知事が休業を求める対象業種を発表した4月10日、都内にいたタクシー運転手の男性は声を落とした。1月までは月70万~80万円を売り上げて手取りが約40万円あったが、ほぼ半減した。
コロナ危機は町工場も直撃する。自動車用バッテリーに使うプラスチックやゴム製の部品を手がけるヤシマ(東京都大田区)は、国内外の工場を一時休止した車メーカー向けの受注が激減。緊急事態宣言後はさらなる外出の自粛や消費の落ち込みで、業績悪化の恐れが強まっている。箕浦裕社長は「5月以降は最悪の場合、売り上げが3割減るかもしれません」と話す。
7日には、城南信用金庫(東京都品川区)などが開いた地場の中小メーカーを集めた商談会に参加した。厳しい環境におかれた企業同士で製品の共同開発や販売協力などを進めようというものだ。箕浦社長も「商談会ではいい出会いがありました。具体的な仕事につなげたい」と、何とかこの経営危機を乗り切ろうと懸命だ。
ただ、企業の先行きへの不安は大きい。東京商工リサーチによると、4月10日時点でコロナ関連の倒産は26件にのぼった。倒産手続きの準備中も25社あるという。「いまは観光業や宿泊業が中心ですが、これからは製造業も増えそうです。それに合わせてリストラや雇い止めなど雇用への影響も広がっていくでしょう」(情報部の増田和史課長)
実際、失業者が増えている。厚生労働省は、4月6日時点でコロナ関連の解雇や雇い止めが1473人になるとの見通しを示した。3月末時点の見通し1021人から、1週間足らずで1.4倍にふくらんだ。
「飲食店やカラオケ、イベント関連など、休業や営業時間の短縮を迫られそうな企業の中には労務管理が緩い小さな会社も多い。休業をきっかけに、雇用契約を打ち切るケースも十分ありえます」。若者らの労働問題に取り組むNPO法人「ポッセ」(東京都世田谷区)の坂倉昇平さんは、緊急事態宣言で雇用悪化に拍車がかかるのではないかと心配する。