鉄橋に差し掛かる瞬間は、鉄道ファンならずとも気分が高揚する。時刻表を読んで目を閉じれば、こんな情景も浮かんできそうだ。写真は、吉野川にかかる「第二吉野川橋梁」を渡るJR四国土讃線の車両(写真:徳島河川国道事務所提供)
鉄橋に差し掛かる瞬間は、鉄道ファンならずとも気分が高揚する。時刻表を読んで目を閉じれば、こんな情景も浮かんできそうだ。写真は、吉野川にかかる「第二吉野川橋梁」を渡るJR四国土讃線の車両(写真:徳島河川国道事務所提供)
「川の時刻表」。縦に川の名前、横に列車名が入っている。列車は、数分ごとに川を渡りながら進むのがわかる(撮影/編集部・井上和典)
「川の時刻表」。縦に川の名前、横に列車名が入っている。列車は、数分ごとに川を渡りながら進むのがわかる(撮影/編集部・井上和典)
「乗り鉄」や「撮り鉄」からの反響もあるという(撮影/編集部・井上和典)
「乗り鉄」や「撮り鉄」からの反響もあるという(撮影/編集部・井上和典)

「つまらない読み物」の代名詞として挙げられる時刻表。だが、その「数字」を読み解けば、想像は無限に広がる。外出が難しい今年のGWこそ、時刻表で「妄想の旅」はいかが。2020年5月4日-11日号の記事を紹介する。

【写真】想像は無限に広がる?「川の時刻表」はこちら

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 都内の会社員、鈴木哲也さん(52)は4時前に起きる。家族は寝静まっているが、朝刊を読み終えると、気ままな旅に出る。

「先日は、JR西日本の夜行特急『WEST EXPRESS銀河』とJR東日本の臨時夜行特急『鳥海(ちょうかい)2号』に乗って、夜行列車2連泊の旅に出ました」

 銀河は、京都・大阪~出雲市を結ぶ長距離列車。鳥海2号は青森~新潟を走る夜行列車だ。鈴木さんは、新幹線や在来線などを乗り継ぎながら、これらの夜行列車に連泊したのだ。

 走行距離は実に約2400キロ。車両もすべてグリーン個室かグリーン車だったというから、さぞ壮大で豪華な旅に……と思いきや、鈴木さんが旅をしていたのは頭の中。時刻表を見ながら、ただ無心に旅をしたという。

 そもそも銀河も鳥海2号も、まだ運行していない。5月から6月にかけ走る予定だったが、新型コロナウイルスの影響で銀河は「当面延期」、鳥海2号は「運休」に。鈴木さんは、もはや幻にすらなった列車に乗り、机上の旅を楽しんだのだ。

「胸がときめいた妄想の旅でした」(鈴木さん)

■時刻表を730冊所有

 たびたび「つまらない読み物」の代名詞として挙げられる時刻表。数字が羅列されているだけの本を見て何がおもしろいのか、と言われることも少なくない。が、時刻表を愛読する「時刻表鉄」は少なくない。

 先の鈴木さんが時刻表鉄になったのは、小学1年生の冬。自宅にあった時刻表を見ていると、父親が使い方を教えてくれたのがきっかけだった。

「列車同士の乗り継ぎに魅かれました。複数の列車を乗り継いで、いろいろな方面や場所へ行けることが楽しいんです」

 かくして時刻表鉄になった鈴木さん。中学生になると小遣いで時刻表を買い始め、所有数は今や何と730冊を数え、かけがえのない心の財産になっている。そして現実から解き放たれたい時などは早朝の約30分、時刻表を眺めながら自由気ままに「妄想の旅」に浸るのだという。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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