「つまらない読み物」の代名詞として挙げられる時刻表。だが、その「数字」を読み解けば、想像は無限に広がる。外出が難しい今年のGWこそ、時刻表で「妄想の旅」はいかが。2020年5月4日-11日号の記事を紹介する。
* * *
都内の会社員、鈴木哲也さん(52)は4時前に起きる。家族は寝静まっているが、朝刊を読み終えると、気ままな旅に出る。
「先日は、JR西日本の夜行特急『WEST EXPRESS銀河』とJR東日本の臨時夜行特急『鳥海(ちょうかい)2号』に乗って、夜行列車2連泊の旅に出ました」
銀河は、京都・大阪~出雲市を結ぶ長距離列車。鳥海2号は青森~新潟を走る夜行列車だ。鈴木さんは、新幹線や在来線などを乗り継ぎながら、これらの夜行列車に連泊したのだ。
走行距離は実に約2400キロ。車両もすべてグリーン個室かグリーン車だったというから、さぞ壮大で豪華な旅に……と思いきや、鈴木さんが旅をしていたのは頭の中。時刻表を見ながら、ただ無心に旅をしたという。
そもそも銀河も鳥海2号も、まだ運行していない。5月から6月にかけ走る予定だったが、新型コロナウイルスの影響で銀河は「当面延期」、鳥海2号は「運休」に。鈴木さんは、もはや幻にすらなった列車に乗り、机上の旅を楽しんだのだ。
「胸がときめいた妄想の旅でした」(鈴木さん)
■時刻表を730冊所有
たびたび「つまらない読み物」の代名詞として挙げられる時刻表。数字が羅列されているだけの本を見て何がおもしろいのか、と言われることも少なくない。が、時刻表を愛読する「時刻表鉄」は少なくない。
先の鈴木さんが時刻表鉄になったのは、小学1年生の冬。自宅にあった時刻表を見ていると、父親が使い方を教えてくれたのがきっかけだった。
「列車同士の乗り継ぎに魅かれました。複数の列車を乗り継いで、いろいろな方面や場所へ行けることが楽しいんです」
かくして時刻表鉄になった鈴木さん。中学生になると小遣いで時刻表を買い始め、所有数は今や何と730冊を数え、かけがえのない心の財産になっている。そして現実から解き放たれたい時などは早朝の約30分、時刻表を眺めながら自由気ままに「妄想の旅」に浸るのだという。