変人と天才は紙一重――。ノーベル賞受賞者など異能の人材が多数輩出する京都大学において「変人」はある意味、褒め言葉だという。既成概念の中にとどまっていては新しい時代を切り開くような自由な発想や研究が出てこないからだ。京大には「変人講座」というイベントが開催されているが、京都大学経営管理大学院の山内裕准教授はこの講座にも登壇したことのある選ばれし変人だ。
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記者が研究室を訪れると、オシャレな格好をした、イケメンなおじさん(山内准教授)がもてなしてくれた。「コーヒー飲みますか」とおもむろにコーヒー豆を挽き始めた。丁寧にハンドドリップ。淹れたてのコーヒーをすすると、取材に来ているのを忘れそうになった。
山内准教授の専門は「サービス科学」で、高級すし店やフレンチレストランなどでのサービスについて研究している。研究対象も“粋”だ。
経営管理大学院の准教授だが、学部生時代は工学部に所属。しかし、機械よりも人に興味があることに気づき、経営学の道へ。ところが日本企業の経営について論文を書いても、海外の人にはなかなか興味を持ってもらえない。そこで目をつけたのが、世界的に評判の高い日本料理「鮨」だった。
「すしに関する日本のデータであれば、海外でも関心を持ってもらえる。鮨の研究をしているといえば、それだけでインパクトが強いですから」
なんとも打算的な話だが、海外の研究者の間でも知名度が上がっているというから、着眼点は鋭かった。
「おもてなし」を基本とする日本のサービスは基本的に丁寧で、客の要望に対して細かく応えるのがいいサービスとされる。しかしすし店の場合、客と対面する大将は愛想がいいとはいえないことに気付いた。しかも高級店ほどその傾向があるように思えた。
「高級すし店のサービスはなぜ無愛想なのだろう」
研究手法もユニークだ。店側とお客の様子を徹底的に観察する。そのために、360度撮影できるカメラや、ハンディカメラ、さらにはボイスレコーダーを多数配置する。膨大に集まったデータから、どういった会話をしているのか、どのような間があるのか、目線はどこに行っているかなど詳細に分析する。
高級すし店では、客にメニューも見せずに「いかがしましょう」と聞いてくる。ここで慣れていない客が「あー」といいながら考え、「おすすめは?」と返す。するとたいていは、大将や店員は「全部オススメですよ」と言って、客の質問には答えない。客が軽くあしらわれてしまうのだ。勉強してこい、ということだ。