常連の客の場合、慣れた様子で注文をしていく。一般的には淡白な白身から食べるのが良いとされる。わかっている客だと店主が認めれば、それは客も伝わる。それを感じ取った客は“背伸びした気分”が味わえる。一方、わかっている客を前にすると、大将も緊張感をもって握る。すし店では顧客と店が互いに切磋琢磨する関係があるとのだという。

「サービスはお客とお店のやりとりの上で成り立つものなんです。お客に対して一方的にサービスするものではない。それを勘違いすると『金を払っているんだから、何を言ってもいい』『お客様は神様だ』と傲慢な態度を見せる人が出てくる。これでは食文化は育ちません」

 ちなみに、最近は20代から30代の“すしヲタ”(すし愛好家)が良い関係を築いているという。 

 研究室にいた女子学生に山内准教授の評価を聞くと、「独特な感覚を持っている、変わった人」。京大には「変人講座」というイベントが開催されているが、山内先生はこの講座にも登壇したことのある選ばれし変人だ。本人には変人だという自覚はないが、変人に対する考えをこう語る。

「京大のいう変人は、世の中の当たり前を疑う人のこと。学者のトレーニングは当たり前を疑うことですから、それは変人になるトレーニングでもあるんですね。特に京大はこうした変人を面白がる雰囲気が強いですね」
 
 「研究は楽しんでいる」とい山内准教授。現在、バーの研究もしており、注文の仕方など作法を学んでいる。また、かつてはウイスキーの研究をしているうちに、ハマり、毎晩寝る前に飲むようになった。最近はワイン。フランスでソムリエと客との関係を研究しているうちに、ワインについて学び始めた。現地でレンタカーを借りて、ワイナリーを回ったという。

「研究しているとどうしても、趣味につながってしまう。ワイナリーに行くと、オーナーが出てきて、30分くらい案内してくれる。テイスティングは無料で、色々飲ませてくれるんですよ。買わざるを得ないじゃないですか。結局12本くらい買ったんですが、スーツケースに入らず、9本だけ持って帰ってきました」

 ただし、プライベートでレストランなどに行くと、ついつい研究者としての視点で分析を始めてしまう。店側の狙いをいつのまにか分析していて、完全には楽しめないところがあるという。また、様々なお店に足を運び、研究に適した場所を探すとお金もかかる。依頼するとなれば、何度か訪れることにもなる。研究費は限られているうえ、2児のパパで、自由に使えるお金は多くはない。

「お小遣いは厳しいが、なんとかやりくりして、ねん出してきましたね」

 と苦笑い。変人を極める道はなかなか厳しいようだ。

(本誌・吉崎洋夫)

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