「麒麟がくる」での藤吉郎役も話題。劇団出身で、年に最低1本の舞台に出演するよう心がけている佐々木蔵之介さんは、5月13日から、PARCO劇場のオープニング・シリーズ第2弾に主演する予定だった。コロナ禍に、あらためて実感した演劇の力とは?
本来なら今頃は、連日稽古の真っ最中のはずだった。
渋谷PARCO建て替えのため、約3年半の休館を経て今年1月に復活したPARCO劇場。そのオープニング・シリーズの第2弾で蔵之介さんは、舞台「佐渡島他吉の生涯」の、あの森繁久彌さんの当たり役と言われた明治~昭和を生きた人力俥夫・佐渡島他吉役を演じることになっていた。
4月2日、渋谷の道玄坂をのぼり切った場所にあるPARCO本部でインタビューをしたとき、蔵之介さんはもちろん、広い会議室にいたスタッフの全員がマスクをつけていた。
「マスクをつけたままですみません」と、最初に蔵之介さんはペコリと頭を下げた。表情が見えない中でのインタビューは難しいかと思いきや、さすがは俳優。目の色や輝きの変化、身の乗り出し方、声の抑揚などで、十分に熱量が伝わる。話は当然、上演予定の舞台の内容からスタートした。
「最初に、演出の森(新太郎)さんからタイトルを聞いたときは、森繁久彌さんの代表作の一つだとは露知らず。『どえらいタイトルのものが来はったな』と面食らいました。聞けば、『夫婦善哉』で名高い織田作之助さんの『わが町』という長編小説が原作で、何度も上演されるうちに、森繁さんが脚本を潤色もしているらしい。森さんが、昭和の人情喜劇にチャレンジするのも初めてということで、僕は一瞬尻込みしたんですが、『人のたくましさを表現したいんです』という一言に胸打たれまして」
台本を読むと、明治から昭和まで、激動の時代を生き抜いた佐渡島他吉の40年がユーモアたっぷりに描かれていた。
「その40年の間に嫁が死んで、娘が死んで、娘婿も死ぬ。いろんな諍いを起こし、不幸な目にも遭いながら、でも、他吉はとにかく明るくたくましく生き抜こうとする。頓珍漢なところもあるし、すぐ泣いて、すぐ怒るけれど、健気で前向き。娘の『お父ちゃんは、神様のようにまっすぐなお人や』というセリフもあって、読みながら、力をもらうような感覚がありました」