政府からは、「子どもの感染を防ぐために、少しでも熱があったり体にだるさを感じたりしたら、すぐに休みを取るように」と指導が出ています。自分がコロナに感染していたらと考えれば、園児たちみんなにうつしてしまう可能性があり、決して出勤すべきではありません。

 しかしコロナの厄介な点は、症状が出なかったり、出てもただの風邪に似ていたりするというところにあります。熱が出たら大事をとって休む「べき」ではありますが、もし自分が休んで他の保育士がヘルプに入れない場合、何人もの園児たちを受け入れられない事態が発生します。

 かといって出勤してコロナだったとしたら、勤務先の保育園周辺がしばらくシャットダウンすることになるわけです。自分が感染者かもしれないという恐怖と戦いながら、体がだるいにもかかわらず無理して保育をしていたら、いつ精神的に限界がきてもおかしくありません。

 保育園からは、神経が削られてうつになってしまった、精神的にも体力的にも疲れ果てた、もう保育士をやめたい、しかし今の時期にやめるわけにはいかない、という生々しい声があふれています。

 体調が悪い場合、感染リスクを考えて休むべきなのか、子どもを預かるために無理にでも働くべきなのか。その判断が誤っていたとき、責められるべきは、果たしてその保育士だけなのでしょうか?

■園児を3日以上預けなかった場合は、1万円を給付

 愛知県小牧市では、4月14日から5月6日までの間、3日以上保育園に子どもを預けなかった場合、協力金として園児一人につき1万円を給付するという政策を打ち出しました。すると、今まで保育園に通っていた子どものうち、95%(4月14日と15日の2日間の数字)が家で待機するようになったそうです。

 こんな数字を見ると、「預けなくても大丈夫な状態であるにもかかわらず、保育園を頼っていた人」がたくさんいたのではないかと邪推してしまっても仕方ないでしょう。

 保育士は、在宅ワークなどできないため、必ず外に出て出勤する必要があります。保育園の中でも外でも、いつどこで自分がウイルスに感染するかわかりません。こうした状況を聞いていると、炎上したアナウンサーの「自覚をもって」という発言や、親からの「保育士を敵に回した」「利用してやってる感が強い」という批判も、私にはなんだかポイントがずれている気がするのです。

命懸けでがんばっている人たちに対して、他人を顧みず自分たちのことのみを考えた心ない言動で、メンタルを追い込んでいく。これこそ、コロナ騒動の中で生じる人災なのではないでしょうか。

 以前、 X JAPAN の YOSHIKI さんが自身の Twitter で、大型イベントを開催する人たちと参加者に「冷静な判断を求める」ように呼びかけたとき、同時にこう発しました。

「批判じゃないよ、批判してる時間なんかない。戦っているのは、対人じゃ無くて、対ウイルス」「今後みんなで助け合う方法を考えようよ」

 まさしく、私たちの敵は新型コロナウイルスなのです。感染が終息に向かってもいないのに、人災を生み出している場合ではありません。私たちは、批判をしたり責任を追及したりすることに時間をかけるのではなく、助け合う糸口を探るべきです。

 コロナで疲弊している人が多いとは思いますが、いつのまにか自分が誰かの加害者になっていないか、一度、自分の行動を省みるべきかもしれません。

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杉山奈津子

杉山奈津子

杉山奈津子(すぎやま・なつこ) 1982年、静岡県生まれ。東京大学薬学部卒業後、うつによりしばらく実家で休養。厚生労働省管轄医療財団勤務を経て、現在、講演・執筆など医療の啓発活動に努める。1児の母。著書に『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』『偏差値29でも東大に合格できた! 「捨てる」記憶術』『「うつ」と上手につきあう本 少しずつ、ゆっくりと元気になるヒント』など。ツイッターのアカウントは@suginat

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