細菌やウイルスなどの病原体が体内に侵入すると、最初に防御の働きをするのが「自然免疫」で、多くの人がイメージする「白血球が病原体と闘う」という局面だ。このとき、白血球の一種であるマクロファージや樹状細胞は、ウイルスなどを捕食して消化・無害化するとともに、その情報を、ヘルパーT細胞に伝える。

 この情報を元に、特定のウイルスを効果的に攻撃する「抗体」を作ったり、ウイルスに感染した細胞を攻撃したりして強力に病原体を排除するのが、「獲得免疫」という仕組みだ。

「病原体の情報がヘルパーT細胞などのリンパ球に伝えられ、抗原特異的な(あるウイルスに特化した)免疫反応である獲得免疫が発動します。B細胞は抗体を産生してウイルスなどを攻撃し、キラーT細胞はがん細胞やウイルスに感染した細胞を殺します」(植松さん)

 このような仕組みがあるからこそ、私たちの体は様々な異物を効果的に排除できる。

 この仕組みを生かして病原体への抵抗力を高めるのが、ワクチンだ。

「ワクチンは疑似感染を誘導して、病原体に対して獲得免疫を誘導するものです」(同)

 ウイルスを攻撃する抗体には様々な種類がある。感染初期に働くIgM、血中に存在し中和作用のあるIgG、アレルギーにかかわるIgE、粘膜面で強力なバリアー機能を有するIgAなどだ。中でも植松さんが着目するのが、粘膜面で感染を防ぐIgA抗体だという。

「多くの病原体が粘膜面に侵入し、そこから全身に感染を広げていきます。粘膜内には特殊な樹状細胞がいて、これらが病原体を取り込んで獲得免疫を誘導すると、IgGだけでなくIgAを出します。病原体に対して特異的に対応したIgAが粘膜面に出るようになると、粘膜面で強力に病原体とくっつき、侵入そのものを阻害します。これが誘導されると感染そのものをブロックできます」

 植松さんらの研究グループは昨年8月、細菌やウイルスの「入り口」に当たる口や気管、腸などの粘膜で大量のIgA抗体を作らせ、細菌やウイルスの侵入を水際で阻止できるワクチン技術を開発した。この技術を応用すれば、新型コロナの予防効果も期待できるという。

 新技術では、まずB細胞がIgA抗体を活発に作り出すよう促すワクチンを接種する。さらに、目、鼻、のどなどの粘膜面に、抗体を作り出す効果を持つ抗原を直接投与する。ウイルス侵入を防ぐ主戦場である粘膜の防御力を集中的に高める仕組みで、すでに肺炎の最大の原因菌である肺炎球菌の侵入を抑える効果が確認されている。

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