近年の現役投手で最大の成功例と言えるのが宮西尚生(日本ハム)ではないだろうか。関西学院時代は48回1/3連続無失点という関西学生野球連盟のリーグ記録を樹立するなど評判の本格派サウスポーだった。だが、プロではここまで一度も先発することなく、昨年まで全てリリーフで684試合に登板し、プロ野球記録となる337ホールドをマークしている。

 大学時代から少し肘を下げたスリークォーターの腕の振りだったが、プロ入り後は完全にサイドスローに転向。スピードではなく、独特のボールの角度と制球力を磨き、球界でも指折りのセットアッパーとなった。学年は上だが、リーグ戦でしのぎを削った大隣憲司(元ソフトバンクなど)と金刃憲人(元巨人など)がプロではもうひとつの成績に終わったのを見ても、宮西のモデルチェンジは英断だったと言えるだろう。

 本格派投手から上手くモデルチェンジした例では秋山拓巳(阪神)も当てはまりそうだ。西条高時代は投打にわたり高い注目を集め、3年時には150キロもマークしている。プロ入り後も一年目からいきなり4勝をマーク。将来のエースとして期待されたが、その後は足踏みが続いた。そんな秋山がブレークしたのがプロ入り8年目の2017年。スピードで押すのではなく、コーナーを丁寧に突く投球を身につけ、初の二桁勝利となる12勝をマークしたのだ。

 今でも時折145キロ以上をマークすることもあるが、基本的には140キロ前後のストレートが多く、シュートとカットボールを有効に使う投球が持ち味となっている。その後2年間は少し成績を落としているが、2017年の成功体験は本人にとって大きな自信となったはずだ。

 自身の持ち味を理解してそれを生かそうとすることはもちろん大事だが、それだけではなかなか通用しないのもプロ野球の世界である。そんな時に元々持っていた武器だけに頼らずに、プレースタイルを変化できるかというのも、プロで成功できるか重要な要素であると言えるだろう。今後も今回紹介した選手のように、新たな一面を見せてブレークする選手が登場することに期待したい。(文・西尾典文)

●西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

著者プロフィールを見る
西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

西尾典文の記事一覧はこちら