「免疫が弱すぎるとウイルスに負けてしまうし、強すぎると腸内細菌にどんどん反応して腸管に炎症が起きてしまう炎症性腸炎という病気になります。強すぎず、弱すぎず、体にちょうどいいバランスの取れた免疫反応が必要なのです」
免疫細胞の過剰な攻撃を抑えるブレーキ役を担うのが、坂口さんが発見した「Tレグ(制御性T細胞)」だ。
Tレグの一部は、腸内細菌のクロストリジウム菌の働きによって腸の中で作り出される。クロストリジウム菌は腸内の食物繊維をエサとして食べ、酪酸を放出する。酪酸が腸の壁を通過し、内側の免疫細胞に伝わるとTレグに変身する。
では食物繊維を多く取ればTレグが増え、花粉症などのアレルギーを抑えられるのか、というとそう単純ではない。
「健康を保つには多様性のある腸内細菌を維持することが重要。特定の細菌の好物を偏食するのではなく、バランスよく栄養を摂取することが大切です」
坂口さんが重視するのは、「共生」だという。
「細菌の世界でも細菌どうしが互いに良好な関係を築いて共生しているように、人体やわれわれの社会も細菌やウイルスとうまく共生していかなければなりません」
新型コロナとの闘いは当面避けられない。だが、坂口さんは将来をこう見据える。
「これまで時間をかけて様々な異物や新たな環境に順応してきたように、人類はいずれ新型コロナとも共生していくでしょう。ワクチンが開発されれば加速度的に免疫を獲得できるはずですし、どれだけ時間がかかるかはわかりませんが、新型コロナは大して悪さもせず消えもしないという形に弱毒化され、生体と共生するようになるでしょう」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2020年5月18日号より抜粋