実際、隠れ栄養失調のリスクがある高齢者に食事について聞くと、たいていは「しっかり食べているから問題ない」と答えるという。

 大渕さんの言う「さまざまな理由」とは、外出する機会が減る、経済的にいろいろな食材を買いにくくなる、歯が悪くなってかめなくなる、などだ。

 特に問題となるのは、かめるかどうか。歯の悪さと食事の関係については、こんな研究がある。65歳から79歳の高齢者を「かめる」群と「かめない」群に分けて、それぞれがよく食べる食品などを比較した。

 その結果、かめる群のほうが、肉、魚、豆、乳製品、卵、油脂類などを多く取っていた。穀物やイモ類、緑黄色野菜は同程度。一方、かめない群のほうが多く取っていたものは、砂糖や菓子類だった。

 ところで、なぜ隠れ栄養失調が問題なのか。

「それは、たんぱく質が少ない状態が続くと、体を動かすために必要な筋肉が痩せ細るからです。その結果、体を動かせなくなって弱り、寝たきりのリスクが高まります」(同)

 風邪などをきっかけに、衰弱が進むことも少なくない。事実、介護が必要になった原因を見ると、高齢による衰弱が13%で、認知症、脳血管疾患に次いで3番目となっている(平成28年国民生活基礎調査)。

 問題だらけの隠れ栄養失調から脱却するには、やはり食の見直しが必要だ。

「理想は、若いときに取っていた食事の内容を復活させること。ただ、それが難しい人も多いでしょう。持病などで食事制限が必要な人もいます」

 こう話す大渕さんが提案するのが、「運動とたんぱく質はセットで考える」だ。

「高齢期は腎機能も低下します。腎臓に負担をかけずにたんぱく質を摂取するには、タイミングが大事です。たんぱく質を取ってから運動する、あるいは運動した直後にたんぱく質を取ると筋肉へ効率よく取り込まれるので、腎臓への負担が少なくなります」

 肉や魚を多く取るとどうしても胃もたれしてしまうという場合は、水分補給にもなる牛乳や豆乳が良いという。たんぱく質やアミノ酸が含まれているスポーツドリンクや健康飲料でもかまわないそうだ。

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