マーケティング界の巨人、フィリップ・コトラーが、最新刊『コトラーのリテール4.0 デジタルトランスフォーメーション時代の10の法則』(朝日新聞出版)で、共著者のジュゼッペ・スティリアーノとともに注目したのが「リテール」戦略だ。同書では、伝統的な小売に限らず、メーカー、金融、輸送など幅広い企業にとって重要な指針が示されている。邦訳の監修を務める早稲田大学商学学術院の恩藏直人教授は、「リテールの重要性は、アフター・コロナの時代においてさらに増してゆく」という。コトラーのリテール4.0について、詳しく解説してもらった。
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――「リテール4.0」とは、小売業を対象にしたものなのでしょうか。
確かに小売業との結びつきは強いのですが、ここでコトラーらが言及しているリテールとは、最終的な販売、売上が実現される局面を意味しています。今日、メーカーも消費者に対してダイレクトに製品を販売することが普通になっています。とくにネット販売はそうですね。デジタル化が進む社会では、メーカーと小売といった伝統的な切り分けは意味を持たなくなってきており、多くのメーカーは消費者と直につながっています。だとすれば、「小売業を対象としている」のではなく、「消費者と結びつくすべての企業が対象」という認識でいいと思います。
コトラーにはデジタルトランスフォーメーションによるマーケティングの革新を論じた『コトラーのマーケティング4.0』という前著がありますが、そこで取り上げられているのはマーケティング戦略の全体像です。本書もデジタルトランスフォーメーションによる変革に焦点をあてているという点では前著と同じですが、より議論の対象が絞られ、マーケティングの中でもリテール戦略にフォーカスしています。対象を絞っているだけに、提言は具体的かつ実践的なものになっています。
――リテール戦略とマーケティング戦略の違いはどこにあるのでしょうか。
マーケティングの骨子は、Pで始まる4つの単語で整理されています。「Product(プロダクト:製品)」「Price(プライス:価格)」「Place(プレイス:流通)」「Promotion(プロモーション:販売促進)」です。