――市場コーチの存在の他に、特注の国産カヌーも戦績が上向いた理由のひとつですか?
世界レベルで戦う選手が使うカヌーは欧州製がほぼ100%を占めます。でも僕は、「自分に適したカヌー」を突き詰めたかったんです。やはり外国のメーカーだと、オンリーワンのオリジナルカヌーを作ることができませんから。そこで市場コーチがレーシングカーなどの設計や開発を手掛けるムーンクラフトに製造を依頼してくれたんです。
――「自分に適したカヌー」とはどんなカヌーですか?
いろいろとありますが、とくにこだわっているのは「硬さ」ですね。川の流れを敏感に感じるためには、カヌーの「硬さ」が重要になります。波がカヌーに当たるコンマ数秒の感覚をつかみ取るために適した「硬さ」を実現できるのがムーンクラフトさんとともに作り上げたカヌーなんです。座面をミリ単位で修正したり、微妙な感覚を伝えたり、そのためにはやはり日本語でないとなかなか難しい。互いに綿密な連携をとっているからこそできた自分に最適のカヌーだと思います。
――そんな足立選手に、あえてお聞きしたいのですが、海外を拠点にできる環境があれば、やはり海外でトレーニングをしたいですか?
いまだったら「NO」と答えます。確かに欧州でトレーニングをしたり、トップクラスの選手たちと競い合たりすれば、選手としての技量は上がると思います。でも僕はこれまで多くの人たちからサポートを受けて、さまざまな苦労を経て、日本にいながら世界と戦える土壌を作りあげられたと考えています。金銭的な事情などがあり、海外を本拠地にすることはできませんでしたが、それでよかったと思います。今は自分が切り開いてきた道で結果を残せる自信があります。
――東京五輪で目指すメダルの色は?
とうぜん金色です。自分のため、そしてこれまで応援してくれた人々のため、またこれからカヌーを始める若い人たちのためにも、日本を本拠地にしたカヌー選手の成功例をみせたいです。
◆プロフィール
あだちかずや/1990年10月生まれ。神奈川県出身。3歳でカヌーを初経験。世代別日本代表選手権に選出される。日本選手権3連覇。2014年、アジア大会優勝。16年、日本人で初となるワールドカップ決勝進出。19年NHK杯兼日本代表選手権大会で4位入賞し、東京五輪代表選手に内定した。5月11日に自身のYouTubeチャンネル「足立和也の『東京五輪へ真っ直ぐ!』」を開設した。
(AERA dot.編集部/竹内良介)