渡辺:いやあ、オーナーになって喜ぶやつなんかいませんよ。僕なんか、こんなもん早くやめられれば、どんなにいいことかと思いますよ。
林:でも、ふつうの人は、読売巨人軍を好きなようにできて、監督さんよりずっと偉い人だって思ってますよ。
渡辺:そんな好きなようになりませんよ。好きなようになるなら、毎年優勝してなきゃ。好きなようにならないから負けるんです(笑)。
林:ドラフトでも、オーナーが「あの選手を取れ」とかおっしゃるんでしょ?
渡辺:いや、選手のことは僕は全然知らんですよ。野球なんてほとんど見ないんですから。
(中略)
林:長嶋さんとは、この直通電話でしゃべってるんですか。
渡辺:そう。スポーツ記者が僕や長嶋君を追っかけたりしてるけど、ほんとにばかげた話だ。電話があるんだからね。電話を盗聴しなさいっていうんだ(笑)。
林:長嶋さんて電話のときも、あのユニークな話し方ですか。
渡辺:いやいや、簡単ですよ。「長嶋君、あと一年やってください」「わかりました」。それで終わり。
(中略)
林:闘病後、また第一線に復帰なさって。渡辺社長に励まされた人、多いんじゃないですか。
渡辺:知ってる人、知らない人からたくさん手紙が来たんです。がん患者とか、ご主人が前立腺がんになった奥さんとか。だから、僕の体験とか、現在の医療技術の進歩とかを……。
林:お返事、お書きになったんですか。
渡辺:書いた。ワープロというわけにいかないから、自筆で。
林:このお忙しいのに……。
渡辺:だって、その人にとっては生死に関する大変なことでしょう。そういう話をたくさん聞くと、がん患者が勇気づけられるんですよ。
※週刊朝日 2020年5月22日号