作家・北原みのり氏の連載「おんなの話はありがたい」。今回は、連日のように報道されている「慰安婦」関連のニュースについて。北原氏は、日韓でともにこの嵐を乗り越えたいといいます。
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韓国では今、連日のように「慰安婦」関連のニュースが報道されている。きっかけは今月7日の元「慰安婦」、李容洙さん(91)の記者会見だった。
李容洙さんは1944年、15歳で台湾の慰安所に入れられた。92年にご自身の被害を訴えてからは、人権活動家として戦時性暴力の残酷さを訴え続けてきた。その李容洙さんが、支援団体の前代表で、今春国会議員になった尹美香氏を非難する記者会見を開いたのだ。寄付金が被害当事者のために使われていないなどとし、ご自身が長年参加されてきた水曜デモにも否定的だった。
それからが大変だった。尹美香氏をめぐる報道合戦がはじまった。支援団体はすぐに記者会見を開き、会計に問題がないことを明らかにしたが、一度火のついたメディアは止まらない。尹美香氏の娘の留学費用の内訳など、家族や周囲をまるごと巻き込んで壊していくような強い誹謗中傷の嵐が吹き荒れている。
胸を痛めながら数週間、このニュースを追いかけている。李容洙さん自身が苛烈化するメディアを批判する声明を出したが(13日)、コロナ禍でなければ、日本のメディアも「たまねぎ」法相と同様に、執拗なバッシングを繰り広げていただろう。30年にわたり「慰安婦」問題を率いたリーダーの「疑惑」を「娯楽」にするワイドショーの面々が目に浮かぶ。
尹美香氏は自身のフェイスブックに「怖くはありません。女性人権家といういばらの道に入った者の宿命として、堂々と対抗します」と記したが、フェミニズムが盛り上がる現代韓国であっても、男性特権を侵害するフェミニストへの根深い嫌悪があることを、今回の報道で突きつけられた。
もちろん男尊女卑の韓国で、「慰安婦」問題は最初から受け入れられたわけではない。1990年代には、「民族の恥!」と女性を非難する声は少なくなかった。そういう社会で女性側からみた世界を語り続け、世論を変えてきた。戦地のロマンとして語られてきた「慰安婦」は、こっちからみたら性暴力だったのだと歴史を変え、長年裁かれてこなかった戦時性暴力は、過去にさかのぼって問うべき人権侵害だと、世界の「常識」を変えた。2018年にIS被害者のナディアさんとムクウェゲ医師(※)がノーベル平和賞を受賞したが、「慰安婦」女性たちはIS被害者と連帯し、ムクウェゲ氏も「慰安婦」女性たちと交流していた。紛争下の性暴力問題でノーベル平和賞が出たのは、「慰安婦」女性たちの戦いがあったからに他ならない。