もっとも、戦国より幕末、あるいは近現代モノがいいという人もなかにはいるだろう。ただ「麒麟」ファンによりしっくりくるのはやはり中世を描いた作品ではなかろうか。戦国モノはもとより、北条政子が主人公の「草燃える」や時代的に「太平記」と「麒麟」のあいだに位置する「花の乱」も面白かった。また、中世の扉をこじあけようとして挫折した平将門が主人公の「風と雲と虹と」も評価したい。これは全話が残存していてソフト化されている最古かつ幸運な大河でもある。
光秀が重要な役割を果たしたという意味では「国盗り物語」や「秀吉」と見比べてみるのも一興。ただし、前者はソフト化されていない。
というわけで、大河の肝は中世にあり、なのである。
なお、不安が混沌を生み、ともすれば個々の感情も対立するという点で、コロナ禍に見舞われた今の状況は当時と似ていなくもない。それゆえ、中世の人々が泰平の世を待ちわびた気持ちも理解しやすいといえる。
また、ヨーロッパの中世ではペストが大流行し、それを避けるため別荘に集まった男女が物語をするという設定で「デカメロン」(ボッカチオ)という名作が生まれた。コロナ禍によって巣ごもりを強いられるような日々はまだまだ続くし「麒麟」の休止期間も1、2カ月が見込まれている。そのあいだは再放送の「太平記」やソフト化された過去の大河で日本の中世に思いをはせるのもよいのではないか。
そのほうが、再び「麒麟」がくるのを楽しみに待てるし、再開後の「麒麟」をいっそう楽しめるはずだ。
●宝泉薫(ほうせん・かおる)/1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など