林:宝塚ではトップまで行かれたんですよね。

八千草:私のころは、トップなんていう制度はなかったんです。

林:そうなんですか。今でも上下関係はすごく厳しいみたいですね。

八千草:それがね、私の時代はそんなことぜんぜんなかったんです。上級生は上級生で敬っていましたが、厳しいなんてあまり思わなかったですね。いまはすごいですよね。宝塚の人にたまたま会うと、「あ、先輩!」なんて言われて、なんでそんなに「先輩、先輩」と言うのかなって。廊下を歩くときはどっちかに寄って、目を見ちゃいけないとか聞いて、びっくりしました。

*中略*

林:(「岸辺のアルバム」について)奥さんが不倫するなんてとんでもない時代に、八千草さんだからみんなが受け入れたという。

八千草:ウフフ、そんなことないですよ。そのころは不倫と言わないで浮気と言ったんですよね。浮気は男の人がするもので、女はしないんじゃないかと思っていました。浮気が見つかったあと、夫に「ここにいさせてください」って言いますでしょ。それも潔くないな、浮気が見つかったら「すみません」と言って出ていくべきじゃないかと思って、最初は躊躇したんです。

林:そうだったんですか。

八千草:でも、「人を好きになるってことに変わりはないんだから」と言われて、なにも考えず、脚本に素直にやっていこうと思ったんですね。

林:脚本は山田太一さんでしたね。

八千草:脚本がとてもよく書かれていました。気持ちがだんだん相手の人に傾いていくところも、自然に書かれていて、脚本を読んで、その気持ちになってやればよかったという感じでしたね。

週刊朝日  2020年6月5日号

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