医療現場では、新型コロナ以前から、自分から配慮を申し出にくく、出産直前まで夜勤を続ける医師や看護師は少なくないという。休めたとしても無給で、キャリアを投げ出さざるを得ず、中には有給休暇を使わせてもらえず、休むなら退職してもらうことになると言われた人もいる。
病院で相談業務を担当する医療従事者で、妊娠6カ月の30代の女性は、患者と密室で面談する業務で、電車通勤も怖く、精神的に不安定な日々を過ごしていたという。職場に在宅勤務をしたいと申し出たが、「医療従事者に在宅での仕事を認めるわけにはいかない」と言われた。結局、つわりがひどいこともあって病気休暇をもらって休んだ。
前出の高橋さんはこう話す。
「妊娠中の労働者に対する平時からの制度の不十分さが新型コロナウイルスによって浮き彫りになっています」
日本労働弁護団の嶋崎量弁護士は言う。
「医療現場は人手不足で仕事量自体も多い。結果的にそのつけを妊婦が負わされている。医療に限らず、人手不足が常態化した職場は多くあって、社会を支えるエッセンシャル(必要不可欠な)ワーカーは同じような問題を抱えています」
同じ職場でも正社員の妊婦は在宅勤務が認められるのに、派遣社員には認められずに出勤している人もいる。また、5月25日に全国的に緊急事態宣言が解除されて徐々に日常が戻ってくる中で、それまで在宅勤務や休業ができていたのに職場に戻らざるを得なくなることを不安に感じている妊婦もいる。
妊婦に関するリサーチセンター「ニンプスラボ」が5月11~13日に実施したインターネットアンケート(有効回答数1275人)では、医師に母健連絡カードへの記入を断られたという回答が9.7%あった。措置を希望しても、“医師ブロック”にあっている妊婦が1割もいる。
たとえ医師に母健連絡カードに記入してもらえて、勇気を出して事業主に「休ませてほしい」と伝えられたとしても、休暇が有給か無給かは事業主の判断に委ねられていて、経済的な不安から、感染を恐れながら働き続けている妊婦も多い。