作家・北原みのり氏の連載「おんなの話はありがたい」。今回は、韓国「慰安婦」支援団体を批判する報道について。あらためて、この社会で被害者の声に耳を傾ける難しさを感じたという。
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ついに死者が出てしまった。苛烈化する韓国「慰安婦」支援団体への批判は、長年女性たちの生活を見守り、支え続けた女性を追い詰めた。2020年6月6日、「平和のウリチプ」の所長、孫英美さんが自宅で亡くなっているのが発見された。自死とみられるという。
「平和のウリチプ」は「慰安婦」女性たちのシェルターで、昨年、金福童さんが亡くなった後は、吉元玉さんが暮らしていた。所長が亡くなる前日まで、メディアやユーチューバーたちが家のチャイムを押し続けていたという。
今回批判の矛先が向けられている正義記憶連帯(正義連)の前身、「正義記憶財団」がつくられたのは、2016年6月9日だ。300以上の市民団体や研究者グループ、1万人以上の市民によって設立された。言うまでもなくこれは、日韓政府の合意に基づく「和解・癒やし財団」設立への抗議を表明している。性暴力被害者が求めているのは、お金による「和解」や、忘れられることでの「癒やし」ではなく、被害者の声が聞かれる「正義」と、被害を忘れない「記憶」。その意思を込めた名前だ。そのストレートな意思表明に、4年前、私は強く胸を打たれたものだ。
前理事長による寄付金の私的流用疑惑など韓国で次々に出される支援団体への「疑惑」を時系列で並べると、意外なことが分かる。この「疑惑」は、元「慰安婦」の李容洙さんが5月に行った正義連の前理事長の尹美香氏への批判から「発覚」したかのようにみられているが、韓国の保守メディア、朝鮮日報や中央日報は既に3月に「疑惑」をぱらぱらと報じはじめている。尹美香氏が国会議員になろうとするタイミングで、既に予兆はあったのだ。
「疑惑」は、どんなに理不尽でも、かけられた側が事実をもって晴らさなければ世間は納得しない。正義連はこの間、「疑惑」に対し一つひとつ応答してきているが、残念ながらその答えが日本語で流れることはほとんどない。疑惑はただ膨らむ一方の印象がつくられてきた。