私は「正義連」とともに活動をする日本の団体「希望のたね基金」を運営してきた立場なので、報道とは逆に正義連のお金の管理の細かさに、正直「うんざり」してきた。正義連は複数の事業を手がけており(生活支援にとどまらず、記憶継承事業や追悼のための事業など)、しかも事業ごとに口座を持ち、お金の流れは非常に厳密だ。そのため私たちが韓国と共同で事業をする時も、どの口座を使うのかに細かな協議が必要とされた。

 問題となっている正義連所有のヒーリングセンターの運用も、例外ではない。ソウル市から少し離れた土地にあるセンターの管理を尹美香氏の父親にまかせ約660万円も支払ったと、さも犯罪行為のように伝えられているが、これは6年間の総額だ。月で割れば最低賃金すら払っていなかったが、泊まり込みで宿泊者のために掃除・洗濯など行き届いた管理や、庭の手入れなどをしていた。しかも管理人の部屋はボイラー室のようなみすぼらしい小屋だ。信頼でき、しかも最低賃金以下でも働く人を見つけられない支援団体の現実がある。それでもこんなことすら「疑惑」として語ることは、いくらでも可能なのだ。

 とはいえ、事実に関する疑惑は、一つひとつ丁寧に反証していけばいい。一方で、性暴力問題を本当に理解していない人たちによる「疑惑」のひどさには、どう抵抗したらよいのだろう。
 
 尹美香氏は、李容洙さんから1992年に初めて電話を受けた時のことを振り返って、Facebook(2020.5.8)にこう記している。「私のことではなく、友人のことなのですが……」李さんは蚊のなくような震える声で、そう言ったという。

 李さんのこの言葉だけで、胸が詰まるような思いになる人はいるだろう。自分のこととして話すにはあまりにつらい過去。性暴力は、「あれは被害だったのだ」と被害者自身が気がつき、声に出すまでの過程があまりにも長い残酷な暴力だ。

 一方で、性暴力を理解しない人は「自分は被害を受けてないと言ってるのに、支援者が利用しちゃったんですね……残念」「李さんがウソつきだと言いたいのか?!」と考えるのだ。実際に今回、韓国の保守メディア、日本のSNSなどでそのように語る人は少なくなかったことに私は衝撃を受けている。

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