「下流」の主役こそ、バブル崩壊以来増え続けた非正規雇用の人々である。三浦氏によると、それでも当時はミニバブルといわれる好景気のさなかであったためか、当の非正規雇用の人々も「年収は300万円ないけど、好きなことができているからいいじゃん」と「下流」と呼ばれることに反発しなかったという。
ところが、08年のリーマンショックがそうした浮ついた風潮を吹き飛ばした。「派遣切り」が横行、多くの非正規雇用者が職を失い、生活苦に見舞われた。
「リーマンショックを経て『非正規ニアリーイコール(≒)下流』が定説になり、私が唱えた『下流社会』が現実として日本で確立したと思っています」(同)
19年の総務省労働力調査によると、今や非正規雇用者は雇用者数5669万人のうち2165万人と実に全体の38%を占めるまでになった。
格差はあらゆる面で意識され、その解消が叫ばれる。しかし現実は、いったん非正規雇用になると正社員に戻ることは難しく、階層の固定化が指摘される始末だ。そして、コロナがその固定化をくっきり浮かび上がらせた。
そんな中、三浦氏は「(『下流社会』から)15年経って、社会はまた少し変わったかもしれない」とした上で、次のように言う。
「今や日本では『中流以上』と『中流未満』への二極化が進んでいるように思えてならないんです。まだ仮説ですが、いろいろ分析を進めていると、どうも階層意識の『中の中』は真ん中ではなく、真ん中以上のように感じるんです。そして、『中の中』と『中の上』の差はあまりないのに、『中の中』と『中の下』には大きな差がある、そんな傾向が出ていると感じるデータがしばしばあるのです」
「中の中」以上が「上流」で「中の下」以下が「下流」とする、新しい格差論だ。
居住地域別の階層意識を集計していて、このことに気付いたという。「中の上」以上と答えた人が多い地域を集計しても納得がいく結果が出ないのに、「中の中」以上と答えた人が多い地域を集計すると、上位が神奈川の湘南や田園都市線沿線など、所得が高い人が住んでいることで知られる地域とピッタリ一致した。全国に広げて集計しても同じ結果だった。