『下流社会』の著者で消費社会研究家の三浦展氏が、ますます進む日本の下流化に警告を発している。コロナ禍で格差が可視化されるなか、今や日本では「中流以上」と「中流未満」への二極化が進み、しかも二つの間に深い「溝」ができつつあるというのだ。最新の格差論を三浦氏に聞こう。
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4月下旬、福岡市の高島宗一郎市長はYouTube上で市が運営する「福岡チャンネル」で、同市内の新型コロナ新規感染者の分析結果を明らかにしながら外出自粛を訴えていた。おおよそ、次のような内容だった。
「男性は30~50代が多く、女性は20~30代が多い。特徴的なのは8割が男性、約34%が経営者・役員で、行動歴として夜の繁華街へ行っていた人が多い……」
三浦氏はこの動画を見て、すぐ非正規雇用者への連想が働いたという。
「詳細なデータがないので確たることは言えませんが、地位のある男性が夜の繁華街へ行ってコロナに感染している。20、30代の女性は非正規雇用者も多く、中には飲食店で接客している人もいます。そういうことが関連しているのかもしれない、と思ったのです」
あくまで推測だ。しかし現実を見ると、同じようなことがあちこちで起きていた。
正社員はテレワークで自宅で仕事ができるのに、非正規雇用の人々は危険な現場に出続けなければならない。フリーランスは仕事がなくなり、緊急事態宣言が出て休業を余儀なくされたのは飲食店主などの自営業者らだった……。
「コロナの被害は弱い立場の人たちに集中しているのです。クルーズ船から感染が広まったわけではありませんが、クルーズ旅行に行く余裕がある人々から始まったコロナ禍が弱い人に被害をもたらしている。その対比が象徴するように、コロナはさまざまな格差を可視化しました」(三浦氏)
三浦氏は2000年代初頭から格差問題を研究し、05年に出した『下流社会』が80万部を超す大ベストセラーになった。タイトルは三浦氏の造語。それが「日本は中流社会」が広く浸透していた当時の日本に衝撃を与えた。