浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演
浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演
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小池百合子東京都知事 (c)朝日新聞社
小池百合子東京都知事 (c)朝日新聞社

 経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。

【写真】小池百合子東京都知事

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 東京都知事選が告示され、現職の小池百合子氏をはじめ、過去最多の22人が立候補した。

 筆者は、かつて小池氏をグリーンモンスターと呼んでいた。小池氏が2017年9月に立ち上げた「希望の党」のシンボルカラーが緑だった。ご本人も、あの当時はもっぱら緑のいでたちであちこちに出没していた。だから、この名前を思いついた。

 ご承知の通り、本当のグリーンモンスターは別に存在する。所在地は、アメリカのボストンだ。そこには、大リーグ野球の名門チーム、ボストン・レッドソックスのホームグラウンドがある。フェンウェイ・パークだ。そのレフトフェンスの愛称が、グリーンモンスターである。

 それを考えれば、小池氏をグリーンモンスターと呼ぶのは、少々、気が引けた。レッドソックス・ファンは、ことのほか熱狂的だ。主人公がレッドソックスに入れ込みすぎて恋人との関係が危機に陥る映画「2番目のキス」は決して大げさではない。そんな彼らが、グリーンモンスターの小池氏への転用を知ったらさぞかし激怒するだろう。そうも考えたが、誘惑に負けて借用させて頂いてしまった。

 今の小池氏は、あまり緑を着なくなっている。「希望の党」の代表を辞したからだろう。だが、ひょっとすると、筆者にグリーンモンスター呼ばわりされたことに恐れをなした面もあるかもしれない。そうだといいが。

 グリーンではなくなったが、モンスター性は相変わらずだ。ひたすら自分のために生き、自分のためにパフォーマンスするモンスターだ。新型コロナウイルスへの対応も、「百合子のウイルスと闘ってますショー」にしかみえない。都民の辛苦や不安や恐怖に思いを馳せて、胸を痛めているとは到底思えない。

 派手な布製マスクをとっかえひっかえ着用してみせる。お得意のカタカナ用語を次から次へと繰り出してくる。日々発表される感染者数が減れば、「ステイホーム」のおかげだとばかりにしたり顔をする。増えれば集団検査の成果だという。何もかも、自分の得点にしなければ気が済まないらしい。このモンスターに対してこそ、我々は常に「レッドアラート」状態でいなければならない。

AERA 2020年6月29日号

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浜矩子

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浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演

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