大島さんは、梶田さんの話を丁寧に聞くことから始めた。突然早朝に梶田さんから電話がかかってくることもあったが、そのたびに何時間も耳を傾けた。こうしてヒアリングにかけた時間は、延べ50時間ほど。梶田さんは、大島さんに話すことで段々と明るさを取り戻していき、笑顔を見せたり、感謝を伝えてくれるようになっていったという。
「保証人がいない」という問題は、NPO団体が梶田さんの保証人になることで解決。梶田さんは、「身内は一人もいなくなったから」と、死後事務委任契約も同様に交わした。
死後事務委任契約とは、人の死後発生する煩雑な事務手続きを、生前のうちに誰かへ委任しておくことができる制度のことだ。葬儀の主宰や役所での行政手続き、施設や病院代などの清算、クレジットカードの解約など、様々な事務手続きは、多くの場合、故人の家族や親族がおこなう。しかし身寄りがない人の場合は、その事務手続きをしてくれる人はいないため、このような契約を交わすのだ。「保証人」や「死後事務委任契約」といった相談は、基本的には身寄りのない“おひとりさま”からが多いが、「身内はいるが、遠方で頼れないから」というケースも少なくない。
梶田さんは、施設に入所するときに必要な家電なども大島さんと一緒に買いに行き、いよいよ施設へ引っ越す当日には2人で鍋を作り、梶田さんの家を片付けるために集まった生前整理診断士たちとともに、「家の卒業式」もした。
その後、思い出の詰まった家を出て、希望する施設に入居。梶田さんの新しい環境での生活が始まった。
■後悔のない最期
無事に施設に入所できた梶田さんだが、自身が孫たちに会うことを頑なに拒み続けているため、このまま亡くなったら、親族が一人も来ない、寂しい葬儀で送られることになる。たった一度の喧嘩のせいで、梶田さんは孤独な最期を選んでしまった。
「梶田さんに何回か、『私がお孫さんに会いに行ってもいい?』と聞いたことがありましたが、了承してもらえませんでした。おそらく、自分の言い分とお孫さんたちの言い分が違うことを指摘されるのを恐れたのではないかと思います。梶田さんは自分の考えを否定されることを極端に嫌がる人で、いつも『私の考え、間違ってるかね?』とすがるように聞いてきました。自分を守る行動の一つだと思います」(大島さん)