『それ、パワハラです 何がアウトで、何がセーフか』などの著作を持つ笹山尚人弁護士は、「パワハラ行為を実際に認定していく上では、ケースの個別具体性を確認することが欠かせません」と指摘する。
「問題とされた言動の内容はもちろん、周辺の事実関係も重要なポイント。北海道大学のケースで言うなら、パワハラを受けた職員が仕事上、総長とどのような関わりにあったか、年齢はどのぐらい離れていたかなど職務上の関係性に加え、パワハラ言動を受けた時間、叱責が繰り返されていた頻度も確認対象となるでしょう」
笹山弁護士によれば、北大の一件のように加害者―被害者間の認識が食い違うケースは実際の裁判でもよくあるという。
「同じ出来事一つでも、加害者と被害者とでは見方がまったく変わってきます。被害者は記憶が鮮明でも、加害者は自分がやったことが『パワハラ』という自覚に乏しく、過去の行為に関する記憶があいまいになりがち。仮に事実関係に覚えがあっても『被害者に原因があって、怒られて当然』と自分の正当性を述べることに終始するパターンも多々見られます」
被害者の告発環境も変化している。
「今はスマホを使えばいつでもどこでも録音・録画ができ、被害を受けたことを誰もが発信できる世の中になっています。会社側のリスクが高まっていることには、 企業経営陣ももっと敏感になる必要があるでしょう」
と話すのは、民間企業を対象にハラスメントの相談対応や研修事業を手がけるクオレ・シー・キューブの執行役員・稲尾和泉氏だ。
稲尾氏いわく、パワハラの内実をめぐって加害者―被害者間で認識が食い違うのは「現場相談のレベルでもよくあること」。その上で、こう語る。
「パワハラが起きやすい職場には激務、厳しいノルマがあるなど、風土上の共通点が多くあります。加害者と話すと、そもそものノルマ設定に無理があったのに、それを部下に伝えねばならない立場に追い込まれていたということもある。『加害者が悪い』『被害者の思い過ごし』など一方のみを責めるのではなく、職場環境自体の問題改善を進めなければ、本当の意味での問題解決にはつながらないと思います」(本誌・松岡瑛理)
※週刊朝日オンライン限定記事