「12週以降の中絶手術は通常の出産と同じような処置が必要で、中絶希望の女性は40万円以上の医療費を支払わなければなりません。一方、12週以降の中絶手術では、40万4千円の出産育児一時金が健康保険組合から支給されるので、結果として自己負担分は減ることになります」(前出の医師)
つまり、12週以降の中絶手術の価格を安くしても、病院としては売り上げは減らないということだ。
これだけではない。X産婦人科の中絶専用ホームページには<妊娠15週台まで日帰り手術可>と書かれている。休みが取りづらい女性にとってありがたいサービスのように思えるが、ここにもカラクリがある。X産婦人科の元職員は、こう証言する。
「X産婦人科では、12週以降の中絶手術でも手術当日に来て、終わったら自宅に帰る女性がたくさんいました。術後の診察も来ない人が多い。入院しても、日帰りでも、病院が受け取る約40万円の出産育児一時金の額は同じ。日帰りで手術を受けてくれる女性のほうが、病院にとって利益率が高いといえます」
妊娠11週以前を含めると、X産婦人科の中絶手術は「月に300件を超えることもある」(元職員)という。中絶専用のホームページにも、年間で3千件以上の手術を実施していることがアピールされている。神奈川県内の同じ規模の病院では「中絶件数は月に5、6件程度」(前出の産婦人科医)というから、ネット広告の効果は大きい。
前出の元職員によると、「熊本から中絶手術を受けに来る人もいた」という。遠方から来院する女性を意識してか、X産婦人科のホームページでは、羽田空港や東京駅からのアクセスがいいことがアピールされている。
グーグルなどの検索エンジンで表示される広告は「リスティング広告」と呼ばれ、検索したキーワードに応じて最適の広告が表示される仕組みになっている。ある医師は、こう解説する。
「中絶のリスティング広告は、費用に対して効果が高い。1千万円以上かけてインターネット広告を出している産婦人科もあります」
この医師が言うように、中絶の広告は他の病院も出している。「妊娠12週まで待てば5万円」といった、あからさまに中期中絶に誘導するような言葉ではなくても、ホームページなどで12週以降の中絶手術は価格が下がるとアピールする病院は後を絶たない。
>>【後編/「母体のリスク高い“格安中絶” 神奈川県のX産婦人科院長との一問一答」】に続く
(本誌・西岡千史)
※週刊朝日 2020年7月17日号より抜粋