前立腺肥大症は、いわば前立腺の「老化」で、排尿に関する症状を引き起こし、70代男性の8割にみられる疾患だ。予防法はなく、放置すると尿が出なくなる発作を起こすこともある。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』では、診断の方法や薬による治療について、専門医に取材した。
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前立腺は男性に特有の臓器で、膀胱の下に尿道を取り巻く形に位置している。精液の一部をつくり、精子に栄養を与えるなどの働きがある。通常はクルミくらいの大きさ(約20ミリリットル以下)だが、加齢にともなって内腺という部分が肥大してくると、尿道を圧迫して、排尿にかかわるさまざまな症状を引き起こす。これが前立腺肥大症だ。
前立腺肥大症の症状は、(1)排尿症状、(2)蓄尿症状、(3)排尿後症状の三つに分けられる。(1)排尿症状として、排尿の勢いがない、途中で止まるなどが、(2)蓄尿症状として、頻尿(1日8回以上、夜間1回以上)、過活動膀胱様症状(尿意切迫感、切迫性尿失禁など)が、(3)排尿後症状として、残尿感、し終わったあとに尿が数滴漏れる(排尿後尿滴下)がみられる。
症状の表れ方には個人差があるが、多くは(1)か(2)のどちらかが強く表れる。そこに(3)が合併することもある。また、前立腺の肥大の程度と症状の強さは必ずしも一致しない。そのため、一般的には前立腺の大きさが40ミリリットル以上になると、なんらかの治療を考えることが多いが、一概には線引きができない。NTT東日本関東病院前立腺センター長の安部光洋医師は次のように話す。
「前立腺が50、60ミリリットルに肥大していても、不自由を感じていなければ、治療を勧めることはありません。前立腺の大きさではなく、日常生活に支障があるかが治療開始の判断の基準になります」
しかし症状が深刻でなくても、前立腺が肥大して残尿が多い状態が続くと、雑菌が増殖して感染症を起こしやすくなる。膀胱や腎臓の機能低下につながるため、放置するのは危険だ。また、アルコールやかぜ薬を飲むと前立腺がむくみやすくなり、突然、尿が出なくなる尿閉を起こして、救急車で運ばれることもある。このような場合には、治療開始を考慮する。