北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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朴元淳ソウル市長(c)朝日新聞社
朴元淳ソウル市長(c)朝日新聞社

 作家・北原みのり氏の連載「おんなの話はありがたい」。今回は、ソウル市長の死で改めて考えた、#MeTooの意義について。

【写真】自死したソウル市長。セクハラで告発された

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 朴元淳ソウル市長が、自死した。報道によれば、元秘書へのセクハラ加害の告訴状が警察に届けられた日の翌日だったという。
 
 弁護士時代から「慰安婦」問題に深く関わり、女性運動家たちからの信頼も厚い人だった。労働問題に真摯に取り組み、弱い立場におかれた人々を政治で救おうと努めた。韓国の民主主義の未来を描き続けた人のこのような最期には、どうしたって動揺する。朴元淳氏ほどの人も、性差別の壁を乗り越えられなかったのだとしたら、いったい……性暴力問題が正しく理解されるまでに、どれほどの時間が必要なのか。
 
 真実を率先して明かすべき人が、その道を絶つ。セクハラ告発後の自死、という一点だけを取れば、多くの少女を犠牲にしたジェフリー・エプスタインの最期と似たようなものになってしまうことも含めて、やりきれない。死により、事件は「謎が深まった」などとテンプレのように表記され、告発した女性は以前とは違う苦悩に追いやられる。性暴力被害者にとって、責任を取るべき人、謝罪すべき人を失うのは、「終わらせられない」ことを意味する残酷だ。

 いったい何度、このような残酷を、私たちは目の当たりにすればよいのだろう。朴元淳氏に限らず、加害を告発された男性たちの少なからぬ人が、“極端な選択”をとってきた。
 
 2016年に都知事選に出馬した鳥越俊太郎氏は、選挙期間中に週刊文春で女子大学生へのセクハラを報道された。報道によれば鳥越氏は、女子大生に「公表したら自死する」とメールをしてきたという。鳥越氏はこの報道を「事実無根」と否定し、名誉毀損と公職選挙法違反の疑いで刑事告訴したが(のち不起訴処分)、驚いたのは鳥越氏支持の女性団体等が、事実を調査する姿勢も見せず、女性の夫がメディア対応したことをもって「夫が語るのが不自然」「性暴力被害をマスコミが政局に利用している」など、鳥越氏の応援を躊躇しなかったことだ。訴えた声を「選挙妨害」と決めつけ、完全封鎖をする道が選ばれた。

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社会的地位を奪われた男性こそが被害者?