林:ほぉ、なるほど。
角川:太夫の役は、孤独で動きがほとんどなくて、部屋に座りっぱなしなんだよね。心の中でひかれ合っている又次とあさひ太夫。「好き」とも「愛してる」とも言えない立場の二人。これを目だけで演じなきゃいけない。
林:それは難しいですね。
角川:でも、うまくやった。この二人はこれからの映画界を背負っていくなと思ったね。
林:又次役の(中村)獅童さんが、またカッコいいんですよね。最近の時代劇に出てくる着流しの男の人って、帯の締め方なんかまるで七五三みたいじゃないですか。さすが獅童さんは着物のこなし方から動作の一つひとつがキマってて、カッコいいなと思いながら見てましたよ。
角川:私は獅童の後援会長を16年前からやってるんだけど、「又次の役で出なかったら、俺は後援会長をおりると伝えろ」と言ったら、伝える前にスケジュールを空けてきた(笑)。まさしくこの役は獅童しかいないと思ったんだよね。
林:獅童さん、この前は2人目のお子さんも生まれたみたいで、よかったですね。
角川:息子の名前が、「陽喜」と書いて「はるき」っていうんだよね。獅童のお母さんの小川陽子さんから一字もらって、「喜」は父親の名前(小川三喜雄)から一字もらったらしい。撮影中に獅童が奥さんと息子の陽喜を連れてきたので、「おまえ、息子に“はるき”って名前つけたのは、呼び捨てにできるからだろう」とかいう話をして(笑)。
林:「はるき! コノヤロー!」とか(笑)。
角川 奈緒はおもしろいところがあって、獅童の奥さんと息子を見ておもしろくないんだよ。というのは、自分はあさひ太夫になりきっちゃってるから、又次が女房子どもを連れてくることが許せない。撮影中はまるで現実のように思い込んでしまう。でも、クランクアップしたあとはケロッとしてるんだ。
林:藤井隆さんも大変だったと思いますよ。一人だけ別の世界から参加してるわけだし、角川監督の前でどれだけ緊張したか。
角川:すごく緊張して、頭真っ白という感じで本読みをやってた。藤井隆は薬師丸ひろ子のファンで、それも夫婦の役だから、大きな思い出になったんじゃないかと思う。