10年ぶりにメガホンをとった映画「みをつくし料理帖」が今秋公開予定の角川春樹さん。作家の林真理子さんとの対談で裏話を披露しました。
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林:大林宣彦監督が亡くなられましたが、大林監督の作家性、角川映画の商業的な成功が結合した、奇跡のような時代があったという朝日新聞の記事を読みました。70年代、80年代ってやっぱりすごい時代だったんだなと思います。久しぶりに社長にお目にかかりたいなと思ったら、社長、今回10年ぶりに監督をなさったんですね。
角川:「みをつくし料理帖」ね。
林:拝見しました。角川監督らしく、度肝を抜くような大迫力ものか、大きなテーマがあるものかと思ったら、人情がジワッとあふれる静かな作品で、ちょっと意外でした。
角川:原作(『みをつくし料理帖』角川春樹事務所)は11年前に書かれたんですよね。そのときいろんな製作プロダクションから映画化したいという話があったんだけど、ことごとく話が途中でこわれてしまった。そんな中、2年前に、当時5歳の子どもと妻と3人で京都の伏見稲荷に登ったときに……。
林:あれ? 社長、また結婚なさったんですか?
角川:そうそう(笑)。そのときにあり得ないようなことがいくつも起きて、妻が「ぜひ(「みをつくし料理帖」の)監督をやるべきだ」と言うんです。その言葉が私の背中を押す形になって、私が監督をすることになった。大林さんの「時をかける少女」(1983年)のときに、林君が原田知世を評価したでしょう。
林:ええ、ええ。
角川:今どきにない高校生の役で、その可憐さを激賞したよね。今回はあの大林さんの「時をかける少女」を意識して、澪と野江(後のあさひ太夫)という二人の少女の話だけにしぼりたいと思った。
林:当時の原田知世ちゃんのピュアな感じが、確かに澪役の松本穂香ちゃんにもありました。穂香ちゃん、こんな大役で緊張したんじゃないですか。何しろ共演が若村麻由美さん、窪塚洋介さんとかすごい方ばっかりだし、監督は角川社長ですから。
角川:そうだよねえ。もう一人、あさひ太夫の役は奈緒という女優で、去年の2月に二人を別々に呼んで話をしたの。松本穂香には「現代の松本穂香が江戸時代にタイムスリップして澪になったつもりでやるように」と。奈緒に対しては「又次との関係性は近松の悲恋もののイメージでいくから、研究してくるように」と伝えた。