訪れる人々に配慮して、店舗の清掃も徹底している。1681年創業のカステラの元祖、松翁軒(長崎県)の従業員は言う。

「店舗のあらゆる場所をアルコール入りスプレーで拭き上げています。まだ皆さん不安な時期ですから、回数が多すぎるということはない」

 誰もが一度は食べたことのあるような銘菓が主力商品だが、新しい味も知ってもらいたいと、新商品の開発に着手したメーカーも多かった。福島県の老舗・柏屋では、伝統の薄皮饅頭(まんじゅう)に“168年目の新商品”として、宇治抹茶味を投入した。

 贈答品だけではなく、家庭のおやつとして気軽に食べてほしいと、家庭消費に目を向けたメーカーもある。創業110年という福井県・村中甘泉堂代表の村中洋祐さんは言う。

「看板商品の羽二重は、売り上げの9割が贈答や手土産需要。心機一転、家庭のおやつ商品を作ることにしました。コロナ禍にちょうど修業期間を終え、入社した5代目(村中さんの息子)が習得した技術で開発を急ぎ、『うましろ団子』『上生菓子 アマビエ様』などを相次いで発売しました。5月の直営店売上高は前年比98.5%まで戻り、直近の6月15日では160%と大きく伸びています」

 福岡県の二鶴堂は、全国の人に地元の味を知ってもらいたいと、人気商品の「博多の女(ひと)」を含め、とんこつラーメンや明太子の菓子など10品を詰め合わせた「家族団らんセット」の販売を始めた。価格は通常より約30%安い5千円で送料無料。おまけとしてフェイスシールド2枚とシールをつける。段ボールに詰める作業は従業員が行う。

 特に観光客が多い京都は、影響が大きかった。京都の井筒八ッ橋本舗の広報を担当する木下貴史さんは、初心に戻ろうと心を切り替えたという。

「京都のいろいろな文化財を見てもらうお手伝いをするのも仕事のうち。京の歴史や風習を伝えていきたいです」

 京都では6月に疫病退散の願いを込めて、「水無月」という菓子を食べる習慣がある。水無月とは、ういろうに小豆をのせて固めたものだ。井筒八ッ橋本舗では、6月から水無月の販売をスタートした。これも、京の風習を伝える活動の一環だ。

 家族で3時のおやつを食べてほしいと、菓子を詰めた「おやつ缶」も作った。

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