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“ミスター検察”と呼ばれた男、伊藤栄樹氏。彼が病床で書きあげた執念の回想録『巨悪は眠らせない 検事総長の回想』(朝日文庫)が、このたび緊急復刊された。

「政治」と「検察」の関係性はどうあるべきか。ジャーナリスト・村山治氏は、「検察人事の政治からの独立」と「検察に対する民主的チェック」のバランスをどうとるか、という構造的矛盾が解消されない限り、今回の「黒川騒動」と同様の不祥事は再び起こり得ると指摘する。

 かつて伊藤氏本人の検事総長人事についても、当時の法相からの“政治介入”があった。伊藤氏よりも年齢的に上である藤島昭氏をまず検事総長にし、その後任に伊藤氏を据えるよう注文がついたという。『巨悪は眠らせない』に寄稿された村山氏の解説を特別公開する。

※「『黒川騒動』は一体何だったのか…“ミスター検察”と呼ばれた男も巻き込まれた政府の人事介入問題の根源」よりつづく

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■「指揮権発動」と検察の対応指針

 末期がんで死までの時間を強く意識していた伊藤氏が、この本の元になる新聞連載の冒頭に選んだのは、1954年の造船疑獄事件とその捜査で佐藤栄作自由党幹事長(その後首相)の逮捕を犬養健法相が止めた指揮権発動だった。全31話のうち6話を割いていることからも、いかに、伊藤氏がこの問題を重視していたかがわかる。

 伊藤氏は、特捜検事としてこの事件で被疑者の取り調べを担当した。主任検事の河井信太郎氏の捜査の方針や手法には疑問を抱きつつ、政治が捜査を歪めたこの指揮権発動に対しては、心底、腹を立てた。

 法相の指揮を受け入れた佐藤藤佐(とうすけ)検事総長が抗議の辞職をしなかったことに「よしと信じたことが法務大臣に拒否された以上、総長は、これに従うと否とを問わず、職を辞して国民の批判を仰ぐべきである」と憤っている。

 悔しい思いをした伊藤氏は、1963年に『逐条解説 検察庁法』(良書普及会)を出版。指揮権発動があったとき検事総長はどう対処すべきか、を論じ、「(1)不服ながらも法務大臣の指揮に従うか、(2)指揮に従わず、自らこれに反する取扱いをし、または、部下検察官に対して法務大臣の指揮に反する指揮をするか、(3)官職を辞するか、の三つが考えられる」とした。

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田中角栄軍団がかみつく…