AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
【映画「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」の場面写真はこちら】
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フランソワ・オゾンは現代フランス映画界を代表する監督の一人だ。女性主人公の複雑な感情を丹念に追い、観る者をぐいぐいとスクリーンに惹きつけた「まぼろし」(2001年)や「スイミング・プール」(03年)で知られる。
新作「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」の題材に彼が選んだのは、フランスのカトリック教会神父による性的虐待事件だ。実話に基づく社会派ドラマを手掛けるのは初めて。戯曲や小説の映画化を得意としてきたオゾン監督だが、制作するにあたってどんな思いがあったのか。
「今回の作品は社会問題についての映画というだけでなく、人々の人生についての映画だ。教会が事実を30年間も隠し続けていたことは驚きだが、そうした法的責任よりも、事件が多くの人生を破壊してきたことに目を向けたいと思った。被害を告白した人たちの勇気に興味をそそられたんだ」
アレクサンドルという40代の男性が、自分と同様に子どもの頃に性的虐待を受けていた人物との出会いをきっかけに、自分を虐待した神父を告発しようと決意する。彼に続き他の被害者も名乗りをあげ、フランス全土を震撼させる大事件へと発展した。外国人の視点から見れば、現代フランス社会において、カトリック教会が今も支配的な存在にあることに驚かされる。
「リヨンという町はブルジョアで保守的なカトリックの都市。多分パリよりずっと教会の力が強いと思う。だが、信者の多くは本作に非常に好意的に反応した。彼らは教会に長い間不満を抱き、幼児への性的虐待に落胆し改善を望んでいた。信者数は減少しており、この事件がそれに拍車をかけたのも事実だ」
多くの信者を抱えるカトリック教会を描く内容だけに、制作上で気を配ったことがある。