ですから、自分の病に向き合って日々、努力されている患者さんの姿を見るとうれしくなります。まさに、あなたと私はともに戦友だという気持ちになるのです。ただ、戦友だからといって、病に対してがむしゃらになる必要はありません。マイペースで淡々と養生に努めればいいのです。
患者さんの治療が良い結果につながらないと、医者は本当に困りますが、それ以外で患者さんに対して困った気持ちを持つことはありません。治療方針に対する考えが異なっても、患者さんが別の医者に「セカンドオピニオン」を求めることで解決できます。
あえて言えば、治療に対して偏った思い込みを持っている患者さんには、苦労します。ある治療法がいいと思い込んでいるのですが、効果はまったくあらわれません。もうその治療をやめさせたいのですが、聞く耳を持たないのです。
医療の基本は「医者と患者さんが互いに寄り添うことにある」と私は考えています。こういう思い込みの強い患者さんに寄り添うのは、なかなか大変です。とはいえ、そういうケースはごくまれです。
いろいろな患者さんがいますが、とにかく医者は患者さんが良くなってくれれば、それだけで、うれしいのです。そして患者さんが卒業式を迎えてくれれば、最高の喜びを感じます。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2020年7月31日号